強烈な円安にガソリン価格の上昇。いつも買ってたお菓子はどんどん小さくなっていき、お金の価値があやふやになっているのを実感する昨今。それでも999円で最新の戦車模型が手に入るんだからとんでもないことである。ということでウォルターソンズジャパンが販売している「モデルキット999」シリーズの最新作、M4A1シャーマン 76mm砲搭載型だ。
なんで安いのかというと、小さいからである。……というのは極論で、別に小さいからと言ってプラモはそうそう安く作れるもんでもない。しかし1/72スケールの戦車は完成するとちょっと大ぶりの寿司くらいの大きさで済むし、それなりの値段であることは嬉しい。1/35スケールならバラバラに分解されて緻密に再現されているような場所も「この大きさならこれくらい表現されていれば充分立体感あるでしょ?」という塩梅に従って一体化されているのがGOODだ。しかも、会社ごとに「何をどう一体化するのか」が違うのが面白い。
シャーマン戦車とひとくちに言っても、あまりに大量に生産されたのでとにかくバリエーションが多い。今回キット化されたのはヌボーンとしたカタチの車体。鉄板を組み合わせて作っているのではなく、まるっと鋳造されているらしい。ズドンと円筒型にハチの張った形状の砲塔とコントラストが付いて、「体型にあまり締まりがないのにやたら喧嘩が強いヤツ」みたいな迫力がある。ちなみにスコップやバールなどの車外装備品は車体に予め彫刻されていて、それ以外はちまちましたライト類や機銃を付けるのが主な工作になる。
パーツを所定の位置に置き、流し込み接着剤を点で置いていけばスルスル組める。小さくてパーツ数が少ないと「なんか切って接着してダラダラとカタチが出来上がりつつある」という眼前の状況に没入しきらなくてもスナックのように楽しめるのが好きだ。テレビを見ながらとか、ビールを飲みながら本当におつまみのように楽しめる。とか言いつつ、そこそこ細かいパーツもあるのでピンセットは必須。そういうのがピリッと定位置に収まると「おっ、今日も模型を楽しんでいるな!オレ!」という気持ちになる。
履帯は軟質素材のベルト式なので、車体ができてからグルンと巻けば写真のように完成する。オリーブドラブの車体と黒い履帯の2色が、充分「戦車らしさ」を醸し出している。当然ここから好きな色を塗ってもいいし、このままちょっとしたところに置いておくのも良い。ただパーツを置いていくだけだと車体前面と上面の間にややスキマが開くのが難だが、この部分が閉じるようギュッと押さえて接着すれば気にならないだろう。小さな体積に案外濃厚な造形が閉じ込められているから、短いフライトタイムでも「プラモ作った感」はしっかりと味わえる、塩気の強いジャイアントコーンのような歯ざわりの一品だ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。