亜鉛(Zinc)、アルミニウム(Aluminum)、マグネシウム(MAgnesium)、銅(Copper)。
ダイキャストミニカーを構成する重要な4つの金属の頭文字によるアクロニム、それがザマック(ZAMAC)。伝説によれば全世界150か国あまりで毎秒16台を売るというダイキャストミニカーの雄、ホットウィール。その無塗装の製品群につけられた称号だ。
ホットウィールは、モチーフとなる車に細部まで忠実であることよりも、玩具であることの強みを存分に発揮して、時に荒唐無稽とも思えるスタイリングで市場を席巻してきた。その奇抜さは多くの才能にインスピレーションをもたらし、実車のデザインの先を行き、つき随わせることさえあった。
>ホビコレ ポーラライツ 1/25 1969 ダッジ・チャージャー ファニーカー ホットウィール
1969年式のダッジ・チャージャーは、アメリカにとって国民的ともいえる人気を博す車だが、それはなにも『爆発!デューク』といった古いテレビ番組の主人公であったことを引き合いに出さずとも、マッスルカーの象徴、オイルショック前の輝かしい記憶、そして1968年に産声をあげたホットウィールにとっては、草創期のスターとして忘れがたい存在であった。
2016年、ホットウィールはこのダッジ・チャージャーを、巨大スーパーマーケット・チェーンであるウォルマートの限定流通商品のひとつとして展開し、爆発的な売れ行きをみせた。ギラッと剥き出しのザマック・メタルの肌に走る、ホットウィールのロゴ&リックス。おまけにファニーカーを模したギミックまで盛り込まれていたんだから、ファンのハートはひとたまりもなかった。
ファニーカーは、市販車の皮をかぶったドラッグレーサーだ。一直線のコースをとんでもない加速で駆け抜ける怪物に、街でみかける車に「似せた」一体成型のボディをかぶせたもの。見ればドアなどどこにもなく、ボディをまるごと熔接面のようにはね上げて、ドライバーは剥き出しの本体に、エンジンともうひとつの心臓として埋め込まれる。
ホットウィールの魅力を高密度に凝縮したようなこのチャージャーが、今度は伝統的な1/25スケールのアメリカンカープラモの世界に殴り込みをかけてきた。
仕掛けたのはポーラーライツ。かつてアメリカで、面白いものならなんでも奇抜なプラモデルにしてしまったオーロラ社の精神を受け継ぐ同ブランドは、ホットウィールとは抜群の相性だった。
たとえ’69ダッジ・チャージャーの既存のプラモデルがあったとて、チャージャー・ファニーカーはその出自と構造ゆえに金型の流用ができない。ポーラーライツはチャージャー・ファニーカーのいちから起こした金型を持っていて、そこにザマック・プラスチックを流し込み、世界一精密な「ホットウィールのプラモデル」を作り上げてしまった。
封入された美しい水転写式デカール以外にもうひとつ、やはり美しいフィルム印刷のステッカーが用意されているのは、年少者への配慮にとどまらない、玩具由来であることの誇らしさかもしれない。
アメリカにおいて玩具と実車は、ふたたび熱い両輪(Hot Wheels)になろうとしているのだ。
>ホビコレ ポーラライツ 1/25 1969 ダッジ・チャージャー ファニーカー ホットウィール
1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。