ようやく安定して店頭で買えるようになったので手に入れました。EG νガンダムです。ひさびさにガンプラを組みましたが、本当に素晴らしい設計で惚れ惚れします。まずエッジが異様に立ってる。「HGシリーズでもこんなにシャープだったっけ?」と思うような、トキントキンのエッジワークが素晴らしい。安価なエントリーグレードだから……というよりも、少ないパーツ数でもパキッとした完成品に見えるよう少し攻めた金型になっているのかな、なんて勘ぐってしまうほどです。
エントリーグレードのガンプラを組んでいて楽しいなと思うのは、極端にパーツを少なくし、シンプルに組み立てられるようにするために「ひとつのパーツにいろんな役割を持たせる」という点です。極論すればカラーリングの再現のためにパーツをこまかく分けてそれをしっかり組み立てられるようにするなら、どんなモビルスーツもだいたい同じパーツ分割、同じ可動ギミックで立体化したほうが合理的です。たとえばザクもサザビーもシナンジュも、あらゆるブロックを前後に分割して中に関節が入っているという意味では似たりよったりの組み立て方でカタチを手に入れることができます。
色が散らばっていて図体も大きく、複雑な形状のユニットも散見されるνガンダムでそれをやるとかなりパーツ数が多くなり、組み立てもややこしくなります。なので、「いつものガンプラのように分割する」という設計ではエントリーグレードになってくれません。
そういうわけで、通常のガンプラでは見たことがないようなアイディアを持ってくる必要があります。前後だとどうしても2パーツに分けなきゃいけないところを一体化して縦に積み上げていくような構造にしてみたり、3つに散らばっている黄色いパーツを内部でひとつにまとめ、最後に露出するところだけを残して外装でカバーしてみたり。当然これは「新しくコイツをエントリーグレードにしよう」と決めたらゼロから考えなければいけないので、ものすごい労力がかかっているんだろうな、と感じるわけです。
「安くて簡単」を実現するために、モビルスーツのデザインを良く観察して全く新しい分割方法を考えて、それをノンストレスかつ高速に組めるようにする……という設計のおかげで、組んでいる僕たちも「わ、そんな方法があったのか!」と驚きます。だいたいの飛行機プラモが「胴体左右合わせに翼を付けて……」という組み味なのに対して、「こういうカタチの飛行機ならこんな分割でもカタチにできるんじゃない?」という新しい提案があると新鮮な気持ちになるだろうな、なんて思います。
もうひとつ驚いたのが、ゲート(プラモのワクとパーツを繋ぐ細い部分)の位置です。エントリーグレードではタッチゲートというほとんど点で接するような細いゲート(ニッパーを使わずに、手でプチっと外すことができます)が取り入れられています。さらに組み立てながらよく観察してみると、完成後に左斜め前から眺めたときにゲート跡が可能な限り見えないよう注意深くゲートの位置が決められています。これは買って組んでみないとわからないのですが、「そこまでやるか!」と感心してしまいました。
どうせヤスリかけて塗装するからゲート位置なんて気にしないもんね、というモデラーもたくさんいるかもしれませんが、それ以上に「買ってきてバリバリ組んで写真を撮ってハイ、いいね!」という人もたくさんいます。そのときにゲート跡が目立っていると、「これはなんだかあまり良くないプロダクトだな」と思われてしまうかもしれません。そんな「遊ばれ方、見せ方」のところまで気を配っているのがこのキットのすごいところ。
とかくガンプラは新しいものが出るたびに違うスタイリング、違うディテールにアレンジされることが多いため、そのルックの好き嫌いで語られがちです。しかし、こんな風に組み立ての過程や「ただストレートに組む人がどんな景色を見てるのかな」というところに注目すると、まだまだガンプラには新しいアイディアを入れ込む余地があるし、他のジャンルにでも同じようなアティチュードがあってもいいはずだ!と思えます。プラモの最新の姿であり、未来のプラモに求められていることも嗅ぎ取れるようなEG νガンダム、ぜひ組んでください。かなり楽しいです。そんじゃまた。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。