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【レビュー】すべてがキマってる「奇跡のガンプラ」/エントリーグレード ウイングガンダム

 BANDAI SPIRITSの”エントリーグレード”に放送30周年を迎えたウイングガンダムが加わった。30周年記念に出るキットが同社製品でも安価でシンプルな仕様のエントリーグレードなのはちょっと淋しい……なんて思っていたら、すべてが噛みあってシンプルイズベストの極致といえる出色の出来栄え。30周年を祝うに相応しい内容に仕上がっていたんだな!

 箱を開けてまず驚いちゃったのが白いランナーの色味がほんのりアイボリーに振られていたこと。ウイングガンダムの版権イラストって寒色系の影色で描かれるイメージがあったので結構新鮮な印象。実は暖色系の白チョイスはアニメのセル画カラー設定の色味を意識したモノで、丁寧に原典とする画を吟味しているのがうかがえる。

 色味そのもの意外にもツヤの無いマットな質感で表面の彫刻が引き立つ。フェイス部のスリットもスミイレなしでもくっきりとよく見える。目の周りは深く影が落ちて黒く見えるエントリーグレードのガンダム系キットではおなじみの処理。アンテナ等の黄色は旧1/100キットの金メッキをソリッドカラーに置き換えたかのような黄土色に振った濁りを感じるモノ。このややくすんだ黄色という色選びはリアルグレード版(2021年発売)でも採用されていて、過去のウイングガンダムキットで得られたカラーリングに関する知見が存分に活用されているように思う。

 胴体まわりの組み立ては用意されたすべての成型色を総動員する最大の見せ場。一色だけ光沢で成形されたライトグリーンによるセンサーの質感、紺色の肩口からチラリと顔を出すブルーグレーのバルカン砲口、開口された黄色いインテークはバルカン砲口から連なった内部メカっぽさにあふれたブルーグレーが穴の底面を塞ぐ。上下に割られた分割構成もプラモデルの都合以上に90年代メカデザインの層の重ね方を実感できて、組んでいて気持ちがいい。造形面でも省略されがちだった円柱型の首形状が再現されていて侮れない。

 ニッパーいらずのタッチゲート部品の処理で面白かったのはフロントアーマー。左右が中央のボールでつながった1パーツとして扱われ、説明書でも特に言及されていないのだけど…

 左右をつなぐ二つのボール自体もタッチゲートとして機能していて、組み立て後にちょっと負荷をかけると内部で割れて左右で独立可動するようになる。HGシリーズのモデルでも左右つないだ状態で部品化してあって説明書では言及しないけれど、ニッパーで切って簡単にセパレート化できるようになっている。エントリーグレードではそんな説明書からちょっとはみ出た改造行為すら「ニッパーいらず」になってしまった。

 関節やライフルに使われる部品を集めたランナーはこれもTV設定に準じたブルーグレー成形。部品数を極力抑えるためにこれでもかというほどスライド金型を駆使して普通なら分割するような箇所も一体化している。


 ブルーグレー成形の部品の中でも拳は注目してほしい部品。手の甲の分割もない1パーツ構成。にもかかわらず指のディティールも素晴らしい。なおかつこの部品は先述のスライド金型などの特別な技術を使わない設計でまとめられている。

 左手に持つシールドのグリップは既存のガンプラとは反対の小指側から差し込む構成になっているのだけど、おそらくその理由はこの拳がよく見えるようにしたかったのだと思う。どうもこの拳がチャームポイントであることに自覚的っぽいんだよね(笑)。




 組みあがってみるとちょっと驚くほど印象の良いウイングガンダムが出来上がる。各部の造形自体はHGAC版(2013年発売)からの転用のようで、そのことに逆に驚いてしまった。細かい差異では肩の丸いパーツや、マスクのスリットなどは彫刻がより深く調整されている。それでも、そういう細かい調整と成型色の選び方でこの姿、この質感に仕上がるのは驚異的といえる。あまりに印象がいいので他商品からの設計データの流用がない新規造形なのだと思ってしまうほどだった。

 そしてバードモードにも変形する……のだけど、説明書にはその旨が記載されていない(!)。ただ現実に背中にシールドをつけてライフルをマウントできて変形に必要な機能がほぼそろっている。「説明書に書かなくたってウイングガンダムの好きな君ならどうしたらいいかわかるよね?」と囁きかけてくる。

 フロントアーマーの左右独立可動と同質のいわば公然の裏ワザ。エージェントに送られてくる暗号指令のようだ。まさに30年目のオペレーションメテオ。ぜひ組み上げて「任務完了」を体感して欲しい。

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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