タック・コムのプラモデルというのは何がすごいのか、というのは以前書いたので、今回は実食です。実際組んでみるとどうなんだ、というのは組んでみないとわからないので。
開ける前に関して言えば、まず箱がデカい。そしてタック・コムのプラモの箱は、お母さんが怒りそうなサイズになればなるほどいい。なんといってもこれはあの秘密機動部隊メガフォースの巨大指揮車のプラモデルなわけで、生半可な箱の大きさではガッカリです。この点に関しては、MODEROIDのタック・コムはまさに「あのタック・コムのプラモなら、これくらいデカい箱に入っていないとウソだよなあ!」というサイズ感。開ける前からフィジカルな満足感があります。
そんな巨大な箱を開けてみると、中には20枚あまりのランナー。ちょっと枚数が多いのでビジュアル的には「えっ……パーツ多くない……?」「めんどくさそう……」という感じに見えるんですが、よく見ると1パーツがずいぶんデカく、ひとつかふたつくらいしかパーツが付いてないというランナーがけっこうある。組み始めると爆速で手元のランナーが減っていき、あっという間にパーツを探しやすくなるので笑いました。おれはパーツが全部なくなったランナーを捨てる瞬間には独特の快感があると思っているのですが、あの快感を高速で何度も味わえて楽しい。
パーツがデカいので、組みあがるのも早い。このタック・コムは基地玩具的文法で作られたプラモだというのは以前書きましたが、およそ3階建ての移動基地の内部がバカバカ形になります。大きく分けて車体の前半下段はモト・デストロイヤーの格納庫、前半上段は操縦室と司令室、後半はメガ・クルーザーが収納されている格納庫なんですが、信じがたいことに「操縦室」「司令室」「格納庫(の床面)」がそれぞれ1パーツでドカンと成形されており、車体底面のパーツにドンドンドンと重ねて乗せていくと、もうタック・コムの車内になっている。これが秘密機動部隊メガフォースのスピード感か……。
で、このキットを買った人は絶対やってみてほしいのが、この段階でメガ・クルーザーとモト・デストロイヤーを組み立ててしまい、一度車内の所定の位置に乗せてひとしきり遊ぶこと。この段階で車内に小さい車両を乗せれば「大解剖! これが巨大指揮車タック・コムだ!」という立体内部図解の趣になり、大変脳にいい。メガ・クルーザー格納庫の脇から伸びている階段が司令室の後ろに繋がっているところとか、「ッカ~!」と声が出る基地玩具的バイブスです。
「タック・コムの中ってこうなってたのか~」とか言いそうになりますが、この宣伝イラスト版タック・コムには内部の設定なんかひとつもなく、劇中登場しないメカの外観から妄想した内部図解を見せられていることになり、何が何だかわからない。おれは何を組み立てているのでしょうか。しかし、「まあ、映画ではああだったけどさあ、タック・コムの中が本当はこうなってたらいいよなあ!」というメッセージはビンビンに感じられます。
タック・コムは基本的に箱状の形をしているので、車内さえできてしまえばあとは前後左右と上面の外板をバンバン取り付ければ大体完成。車体は全長約23㎝というけっこうなボリュームですが、慣れている人なら1時間ちょっとくらいで組み立てられると思います。
組み上がってみると、予想以上に小メカのメガ・クルーザーとモト・デストロイヤーが効いている。周囲の小型車両が巨大感や移動基地感をピリリと効かせてくれて、遊び甲斐もマシマシ。そして、これらの小型車両のおかげで「タック・コムのプラモデル」ではなく「大小メカがズラリ並んだ『メガフォース(の宣伝イラスト)』のプラモデル」になっている。タック・コム単品では見えてこなかったであろう「我々が見たかった『メガフォース』」という概念が、タック・コムと小型車両がセットになることで目の前に立ち上がってきます。
というわけでMODEROIDのタック・コムは、豪快かつスピーディーに『メガフォース』という概念の姿を味わえるキットと言えます。これはタック・コムのプラモデルであると同時に、「あのポスターと我々の脳内にしか存在しなかった『メガフォース』」のプラモデルでもあるのです。存在しないメカに存在しない内部が詰め込まれ、本当に見たかったものが手に取れる形で出現する……。
1982年以来の「コレジャナイ」の果てに成立した、謎と奇跡のプラモデルと言えましょう。単純に基地玩具として遊ぶもよし、ワイルドな昭和の映画宣伝によって出現してしまった複雑な旨味を味わうもよし。この空前絶後の奇祭に、参加しない手はないのです。
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。