聞こえるか、遥か地平を埋め尽くす巨大な地響きが!/MODEROID発、「タック・コム」のプラモデル。

 映画という表現物には色々な側面がありますが、多くの作品に共通して存在するのが「興行」であり、「見世物」であるという一面です。映画はより多くチケットを買ってもらうことを目的とした興行であり、そのためには多くの人の興味や関心を惹かなくてはなりません。そのため、たくさんの映画が見世物的側面を持つことになりました。絶世の美男美女や身の毛のよだつような怪物、派手な格闘やショッキングな残虐シーンやかっこいいメカ……。「チケットを買えば、退屈な日常では見られないこんなにすごいものが見られますよ」という点を押し出して映画を宣伝するのは、今も昔も同じです。
 が、ワイルドな昭和の映画宣伝では、そのあたりを押し出しすぎて事故ることがちょくちょくありました。よく知られるのが、1982年公開の『メガフォース』。超有名事故として擦られまくった映画なので、見たことはなくてもタイトルは聞いたことがあるかもしれません。簡単に言うと、宣伝イラストではめちゃくちゃかっこいい巨大装甲司令車タック・コム以下超イカした車両群が走っているのに、実際の本編では「大きめのクルマだな……」くらいのサイズでタック・コムが登場。期待して見に行った当時の少年少女たちが打ちのめされた……という、昭和の興行や映画宣伝のワイルドさを象徴するエピソードです。悲しいね……。

▲「このキットを買うなら、デカールくらい貼れるだろう」という想定ユーザー層に対する圧倒的な信頼感

 そんな悲しみを胸に秘めた者たちが、「本当はこっちの『メガフォース』が見たかったんだよ!」という闘争心をぶつけにぶつけまくったプラモデルが登場しました。グッドスマイルカンパニーから発売された「MODEROID タック・コム」がそれです。このキットは当時描かれた宣伝用イラストで砂漠を爆走していたタック・コムを立体化しており、つまりこのタック・コムは映画本編には一瞬たりとも登場していません。マジで絵が一枚あるだけ。ちょっと前に生頼頼義氏が『ゴジラvsメカゴジラ』のポスターに描いた(そして本編には登場しなかった)メカゴジラがバンダイによってフィギュアになりましたが、アプローチとしてはあれと一緒です。映画本編に登場したメカですらない、本当に「絵が一枚あるだけ」というネタがプラモデルになったという、驚天動地のプロジェクトがついに結実したわけです。企画のOKが出たことも、版権を許諾したこともすごすぎる。

▲車体サイズを割り出す唯一の手がかりとなったモト=デストロイヤー

 なんせこのキット、立体化するための手がかりはイラスト一枚。イラストでは本編にも出てきたモト=デストロイヤーが並走しているんで大雑把なサイズがわかりますが、逆にいうと斜め前から見た形状とざっくりした大きさ程度しかわからない。というわけで、中も「タック・コムの中身はこうであってほしかったし、こんなタック・コムのオモチャで遊びたかったんだよ!」という妄想が詰め込まれております。妄想しか中に詰めるものがないんだもんな。また、1982年当時『メガフォース』に殴られたユーザーに向けてか、キットはMODEROIDには珍しく接着剤が必要かつ水転写デカール付きという仕様(「当然プラモの大ブームをほぼ全員経験してるよな!?」という目配せ)です。

▲聞こえるか、この圧倒的基地玩具バイブスが!
▲こういう細かい階段とかを見ると「基地」が好きな人は泣きます

 タック・コムは、まずもって秘密機動部隊メガフォースの装甲指揮車であり、そしてでっかい移動基地であってほしい。ということで、MODEROID タック・コムの車内はダイアクロンやこえだちゃんの木のおうち的な基地玩具的方向性でまとめられています。車体上部にはシートとなんかすごそうな機材が並んだ司令室があり、後部ハッチからはメガクルーザーが出撃! プラモデルではありますが、ギミックや佇まいは「光る! 鳴る! DXタック・コム!」といった趣になっており、「基地」を愛する者ならばメシを3杯は食えます。

▲この非実在リベットがすごい

 そしてシビれるのが車体全面に打たれたリベットのモールド。冷静に考えれば、秘密機動部隊メガフォースの巨大指揮車がリベットで組み立てられているのは、そりゃちょっとどうなのよという話ではあります。が、しかし、80年代のロボットアニメとかを見ると、「リアルなメカ」の記号として装甲表面にリベットが描き込まれていることはちょいちょいある。80年代初頭当時なりの基準で架空のメカのプラモをリアルっぽく見せようとした場合、ついいつものクセで車体の表面にリベットを打ってしまう……。そんな想定は、自分にはかなりありえそうに思えます。どんなロールプレイだよそれ……という感じですが、現にそれをやっているプラモデルが手元にあるんだからしょうがないんですよね、もう。楽しいなぁ。

▲タイヤは軟質樹脂製。そっちの方が盛り上がるよね

 『メガフォース』のあの超カッコいい宣伝イラストと本編とのギャップは一種の事故であり、その経緯は本作の宣伝を手掛けた檜垣紀六氏のインタビュー(雑誌『フィギュア王』No.284に収録)を読むとだいたいわかります。重要なのは、その大事故の跡地からこんなに熱意と妄想に溢れたプラモデルが生えてきたこと。そしてそのプラモデルが、事故原因となったイラストをそのまま模したものであることです。ある意味ネタ的に語られがちな『メガフォース』とタック・コムという題材に大真面目にぶつかり、40年越しのリターンマッチをプラモデルの形で果たしたという点には、謎の感動を覚えます。
 というわけで、このキットは妄想の詰め込まれた基地玩具的プラモデルであると同時に、荒っぽい昭和の見世物的映画宣伝の「模型」です。『メガフォース』に殴られた記憶を持つ40年前の少年少女も、そしてそれ以外の人も、この歴史的リターンマッチを見届けない手はありません。遠い昔に萎えてしまった闘争心を再び奮い立たせ、プラモデルにぶつける時は、いまなのです。

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しげる

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。