プラモメーカーと自動車メーカーの蜜月に起きた「愛され続ける行き違い」/amt 69年式シェベル

 「神よ、変えることのできないものを静かに受け容れる力を与え給え。変えるべきものを変える勇気を、変えられないものと変えるべきものを見分ける賢さを与え給え」(神学者ラインホルド・ニーバーの祈り)
 1960年代最後の年を前に、amt社は相変わらず多忙をきわめていた。3交代制、24時間操業、そうでもしなければクライアントである自動車ブランド・シボレーの今年のニューモデルを、販売促進用のプラモデルとして納期通りに仕上げるなんて、とてもできなかったからだ。

ホビーコレクティブ AMT 1/25 1969 シェビー シェベルSS 396

 1969年のニュー・シェベルは、前年の大きなモデルチェンジの後だっただけに、ほんのわずかな細部の変更にとどまるはずだった。amtは前年1968年モデルのシボレー・シェベルのプラモデルを生産し終えると、シボレーからいち早く預かっていた69年式の図面と情報にしたがって、ただちに金型の改修に取りかかった。彼らの手つきは馴れたもので、フロントグリルにバーを1本あらたに渡すことなど造作もなかったし、安全にかかわる法の強化に合わせたテールライトの拡張も、基本的なボディー形状をすっかり押さえてあるからにはモックアップすら必要なかった。彼らは迷うことなく68年式シェベルの金型を絶版化した。

 「これがアメリカで一番人気のミッドサイズ」とシボレーが満を持して披露した69年式ニュー・シェベルの姿は、amtのエンジニアを狼狽させるに十分だった。

 amtのエンジニアはいつものようにきちんと仕事をやってのけた。それは間違いない。しかしながらシボレーが盛り込んだいくつかの微調整は、amtのエンジニアが事前の情報をもとに想定したそれよりもはるかに大きかった。流麗なラインを強調するサイドトリムはどうしたわけか姿を消してしまい、予定どおり拡張されたテールライトまわりの面取りの変更はもはや「三面図ならではの陥穽」としか言いようがなかった。大きくなったテールライトをうまくリアに収めるために治具ごとリアボディーを変更することにしたシボレーと、ボディーそのものの形状に変化はないと事前に聞かされてモックアップを起こさなかったamt。まさかの展開にどちらの担当者もきまり悪そうに天を仰ぐしかなかった。

 しかしこの行き違いは、実際のところ誰からも責められることはなかった。事情などあずかり知らぬ後年の口うるさい模型ファンですら「金輪際手に入らなくなったはずの68年式がひょっこり帰ってきたようなものさ」「削る/埋める部分があるというだけ。誰でもできる」と言って意に介さず、69年式を求める者は黙って側面のトリムを削り、68年式をいまだ望む者はテールライトの拡張された部分を埋め、そのままが気に入った者はただそのままにした。誰もが例外なくこのキットを楽しんでいた。

 amtブランドの運用者が変わったこの21世紀の再販においても、ご覧のとおりキットには何の変更も加えられていない。それは、すっかり解き方の知れ渡ったなぞなぞのように、今日も明日も、みんなをまるで昨日のように楽しませるのだった。

ホビーコレクティブ AMT 1/25 1969 シェビー シェベルSS 396

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bantowblog

1972年生まれ。元トライスタージャパン/オリオンモデルズ、旧ビーバーコーポレーション勤務を経て、今はアメリカンカープラモの深淵にどっぷり。毎週土曜22時から「バントウスペース」をホスト中。