歓喜の涙にむせびながら組むプラモ/『2001年宇宙の旅』から、アリエス号がやってきた。

 この記事のサムネイルを見て思わずクリックしてしまったアナタとなら、私は無条件でハイタッチしますよ。なんのことやらわからん人は、いますぐAmazon Primeビデオに加入して『2001年宇宙の旅』を観てください。
 さて、まずは祝辞です。あのアリエス号がプラモデルになりました。私はこれが嬉しくて嬉しくてたまらない。しかもちょっとやそっとの大きさじゃない。直径38cm。家に存在するだけでちょっとした騒動です。もし床の間があったら、そこにドンと飾って家の重要な宝物として末代まで崇め奉りたい。道端で大きな声で叫びたい。大好きだ。君が大好きだ……。
 指折り数えて幾星霜(予告からそんなに経ってないっつの)、ついについに、メビウスモデルのアリエス号が我が家にやってきたのです。人生で「絶対にプラモにならないだろう」と思っていたものが、本当にこうして自分の手に収まる瞬間というのは何度体験しても全身の血が沸騰するような興奮に包まれますね。ありがとうメビウスモデル。おめでとう、2001ファンの皆さん。

▲箱が大きい写真に「箱が大きい」というキャプションを書くことを許してください。デカい。そして深い。

 劇中では宇宙ステーションと月面の移動に使われた球形の宇宙船。『青く美しきドナウ』の旋律とシンクロするようなカット割りでシンプルなシルエットとゾクゾクするような複雑なメカニズム、そしてあまりに優美な船内のインテリアはSF映画のビジュアルとしてあまりにも強烈。
 しかしなんというか、時代が追いついてきましたね。効率的な宇宙船を作るにあたり、小さなエンジンをたくさん束ねること、操作系をシンプルに纏めながらフラットパネルに情報を集約することなど、本当の2022年がむしろ映画に近づいています。そしてこんなにかっちょいい物体なのに、プラモがこの世には存在しなかった。いろいろな大人の事情はあれど、これは人類の損失と言ってよかった。でもプラモになったから、一家に一台アリエス号が置けるんですよ。すごいことだよこれは……。

 箱のなかでいちばん大きなパーツがこれ。船体の客室より上の部分を覆うドームです。彫刻自体は繊細というよりも実直にパネルラインの形状を追っている雰囲気。ともすれば「大味」と捉えられそうなものですが、ビッグサイズモデルのいいところは「めちゃくちゃに大きいから離れて見たときになんだかやたらと精密に見える」という点に集約されます。同じ厚みのパーツでも、同じ太さのスジボリでも、大きなスケールになれば相対的に薄く、細く見えるという寸法。

 スケールは1/48。飛行機モデルや戦車モデル、メガサイズのガンプラで1/48スケールに触れたことのある人ならばわかるでしょう。充分に人間の大きさを感じられるスケールです。椅子があり、操縦桿があり、扉や階段も嘘の付けない大きさとディテールで「そこにちゃんとある」というのがいいんです。逆に言えば、人間の不在がどうしても感じられてしまう。パイロットや乗客を乗せることで、アリエス号の優雅で神秘的な旅をその手に再現することもできます。さて問題は、スタイリッシュな普段着のまま乗船する面々のフィギュアをいかに集めるかということですが……それはまた別のお話。

 いじましいのが透明パーツの面々です。蜂の巣のようなものは船底に位置するエンジンノズルのクラスタです。劇中では噴射炎を出しているシーンなぞ皆無なのですが(それどころかスス汚れでまるっとダークグレーになっているように見えます)、ここが透明なのは「ほら〜、電飾したいでしょ〜。裏からLED入れるとエンジン吹かしているように見えるよ〜」という設計マンからのメッセージ。このパーツを取り付ける部分にはご丁寧にでっかい穴が開いています。君は光らせるか、それとも……。

 シンプルな形でありながら、複雑な機構で展開/収納状態を再現可能な降着装置を始め、キャビンの内部や表面のこまかなディテールはびっしりと小パーツが用意され、これをチマチマと組み合わせていくことになります。ダイナミズムよりもディテールの追いかけを重視するのがSFプロップ(撮影用小道具)再現系のプラモに背負わされた宿命ですが、果たして組んでいる間は楽しいのか、どうなのか。こういうところはちょっとランナー写真だけでは全体像が伝えられませんね。

 さてさて、まずは組み始めましょう。同じ形の降着装置を4つ。ああ、まるで工員になったような作業の反復。退屈なようでいて、まだ誰も見たことのない「本当のアリエス号に近づくためのプラモデル」がこうして徐々に形になっていく興奮。大量のパーツと、根気の必要な……しかし、クラークとキューブリックのファンにとってはこれ以上ないご褒美が店頭に並びました。月への旅行は無理でも、このチケットを手にすることは今すぐにできます。みなさんも、ぜひ。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。