箱を開け、そのランナーと出会った瞬間、ドギマギしてしまいましたね。絶世の美女と目が合ってしまったような緊張感。または都市伝説で出てくるような怪異(口裂け女とか八尺様とか)とバッタリ暗闇で出くわしたような恐怖感。あるいは千手観音や阿修羅像のような、人体のパーツを切り貼りした神々しい仏像を目の当たりにしたような畏怖の念が生まれたのです。
脳には人の顔を認識する領域があるそうですが、そこがバグりました。顔の無い美女の身体、身体の無い美女の顔。とてもよく出来た造形、あまりにも自然な人のカタチが、バラバラと小さなプラモデルとなっているので脳が混乱したのです。しかし、その混乱を楽しめている自分がいます。
顔の無い美女、何が美女なのかっていうと、ズバリその肋骨と引き締まったお腹の稜線。顔や手足が無いからこそ目が追ってしまうウエストの美しさ。硬質なプラスチックだという印象をまるで与えない見事な造形です。
コンパニオンとしてボディラインを強調されたその姿勢の良さがありながら、リアルな人体にズバッと断面があるさまは、まるで人間の身体を超越した存在のような一種の神々しさ、そして不気味さをも湛えています。
さて、どうやって作るべきか。何も手を付けずに、この未完成のランナー状態のままで額に飾ってもヨシ!と思えるぐらいに美しい彫刻なのですが、プラモデルはあくまで組み立ても楽しみたい。この未完成で不完全な状態であることの美を表現し、なおかつプラモデルとして完成させるという矛盾を孕んだ作り方を思いついたのです。
しょーもないトンチかもしれませんが、これで完成と未完成、どちらでもあり、どちらでもない状態を表現できました。と、自己満足しています。時空の狭間で妖しく微笑む2人の美女です。
新学期の春がやってきます。学生時代、新しい出会いに思いを馳せては浮かれていた心地よさ、自立も出来ず地に足のつかない居心地の悪さ、自分がモラトリアム期間に抱いていたそのどっちつかずな感覚とズレをなんだか思い出してしまったが故の、感傷モデリングだった気がしてきましたね。
1988年生まれ。茨城県在住の会社員。典型的な出戻りモデラー。おたくなパロディと麻雀と70’sソウルが大好き。