1965年の象徴的クルマと象徴的ファッションをひとつの箱に。オーナーズクラブ ヨタハチとVANヂャケット。

▲箱を開けた瞬間、鳥肌が立った。「VANヂャケット」のデカールがある……なぜだ。このプラモは何なんだ!!

 先日の地震で、キャロルが廃車になってしまった……自然には勝てない。棚にぽっかりとあいたスペース。やっぱりあそこには車の模型が欲しいとなり、僕は同じオーナーズクラブの「’65トヨタ スポーツ800」を買った。ヨタハチの愛称で親しまれている名車だけに、どこに置いても様になるはずだ。

 届いたヨタハチの箱を開けると、僕は言葉を失った。日本に欧米スタイルのファッションを根付かせるきっかけとなった伝説的ブランド「VANヂャケット」のデカールが入っていたのだ。なぜヨタハチに……このオーナーズクラブのヨタハチは何なんだ。調べて見たが良く分からない。そこで僕はアメリカンカープラモでもお馴染みのアニキ、バントウアニキにメールをしてみた。

▲トラッドやアイビーファッションの特集で必ず登場する「TAKE IVY」とVANヂャケット。日本の洋服という文化において絶対に欠かせないキーパーソン、石津謙介により1948年にVANは創設され、1960年には日本にアイビーブームを巻き起こす
▲30分で形になってしまうコンパクトなパーツ数。オーナーズクラブはハンバーガーやホットドッグのような手軽さがある

フミテシ(以下フ):バントウさん、こんにちは! オーナーズクラブのヨタハチを買ったら、VANヂャケットのデカールが入ってたんですけど、いったいどんな物語があるんですか?
bantow(以下b):フミテシさん、こんにちは。お尋ねのトヨタS800に付属のVANロゴですね。これは、1965年の象徴みたいなクルマと、当時の象徴的なファッションを結びつける存在です。日本の若者はいきなりカスタムカーのえぐい世界にはいかずに、かっこいいステッカーを貼って最先端の気分を満喫していたというスタイルが、プラモのデカールになっているんです。
フ:いきなりハートを鷲掴みにされました。
b:ヨタハチの発売は1965年ですが、まさにこの当時、アイビールックがちょうど日本の若者の間で大流行していたんです。「※TAKE IVY」という伝説的な写真集が発売になり、そのブームの中心であったVANは、様々なジャンルに渡っていわゆるメディアミックス戦略を仕掛けます。
※TAKE IVYは、VANの石津祥介とくろすとしゆきが日本の若者の間で盛り上がりつつあるアイビーファッションの熱と、その熱とは反して社会的には「アイビーは不良」というネガティブだったイメージ問題を解決するために、彼らが編成したチームで渡米し、アイビーの本場である名門大学グループ、アイビーリーグの学生たちについての映像を映画と本にまとめたもの。現在日本だけでなく、アメリカにおいても自国の服装の歴史書として扱われているほどの偉業となっている。

▲日本のファッション・カルチャー誌においても毎年のように「TAKE IVY」をベースにしたもの、もしくは香りがする特集が企画されている

 b:そのひとつに「レーシングメイト」というノベルティグッズ的なカーアクセサリーのブランドがありました。 第1回日本グランプリが鈴鹿サーキットで開催されたのが1963年5月。この第1回・第2回に出場して優勝を重ねた式場壮吉と、その親友でVANの宣伝部長を務めることになる石津祐介、それに式場壮吉の学友だった杉江博愛(後の徳大寺有恒です)、さらには伝説的レーサー生沢徹やミッキー・カーチスといったクルマ好きが集まって、夜な夜なクルマ談義に花を咲かせていたところ、メンバーの多くが共通して愛用していたレス・レストン(伝説的な英国人レーサーが引退後に興したノベルティグッズのブランド)のチェッカーフラッグ柄のカーアクセサリーが話題にのぼり、「こんな感じのいかしたアクセサリーブランドを我々もここ日本に作ろうじゃないか」と意気投合、アルファロメオの四葉のクローバーにインスパイアされたロゴを冠したブランド「レーシングメイト」がここに立ち上がるのです。
 フ:レーシングメイトと調べたら、たくさん出てきました。このクローバーのデカールはないんですね。かっこいいのにな~。でもVANヂャケットとモータースポーツとのかかわりが少しづつ見えてきました。
 b:これが1965年。 レーシングメイトもVANヂャケットも、その多彩な人脈とメディアを大いに駆使して、1960年代当時の若者の意識に「モータースポーツ=かっこいい」の図式を浸透させていきます。特にその誕生のタイミングが重なったこともあり、トヨタS800はその象徴的なクルマと捉えられ、生沢徹に影響されてVANのステッカーを自慢げに貼った個体がたくさん東京の街を走っていたそうです。 デカールの写真を拝見したところ、あいにくレーシングメイトの四葉のクローバーはないようですが、VANヂャケットのロゴと、セブ・マーシャル S.E.V. Marchalのキャット&フラッグのマークが入っていて、1965年当時の空気をよく捉えていると思います。

 VANのステッカーを自慢げに貼っていた個体がたくさんあった……。そんな時代の景色がたった一枚のシートに閉じ込められている。今の車模型で良く見るスポンサーデカールやチームのマークでもない。VANとそしてセブ・マーシャルのデカールは、当時の企画マンがその時にかっこいいと思えた景色をデカールに閉じ込めた宝物だった。そんな面白い話を聞けたら、このプラモがもっと好きになってしまった。もしオーナーズクラブの他の模型にもこんな手心が加えられているとしたら、もっと箱を開けたくなる。キャロルを思う存分楽しんだからこそ出会えたオーナーズクラブのヨタハチを、今日から僕の宝物にしよう。僕だけのヨタハチにして見せる。楽しい話を聞けたら、手を動かせずにはいられない!

▲僕の買った個体はノスタルジーが大暴走していたので、ヤスリで磨いた。筆塗りならこのくらいの傷は埋まっちゃうから問題ないよ
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フミテシ

1983年生まれ。月刊ホビージャパンで12年間雑誌編集&広告営業として勤務。ホビージャパンで様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。「ホビージャパンnext」、「ホビージャパンエクストラ」、「ミリタリーモデリングマニュアル」、「製作の教科書シリーズ」などを企画・編集。