
キューベルワーゲンは、ドイツ軍が大戦中に使用した軍用車両の中でも、最も色々な場所で使われた車両でしょう。米軍でいうジープにあたる快速で多用途な軽車両なんですが、ジープのような四輪駆動ではなく後輪のみの二輪駆動だったり、エンジンが車体の後ろに搭載されていたりと、けっこういろんなところが違います。

そもそもキューベルワーゲンのベースとなったのは、有名なフォルクスワーゲン タイプ1、いわゆるビートルです。これを原型にフェルディナンド・ポルシェ博士が軍用プロトタイプのタイプ62を作り、さらにそこから改良を加えたのが、このキットの題材となった生産型のタイプ82。タイプ62ではまだビートルっぽかった見た目がタイプ82では素っ気ない箱状になっており、軍用にするっていうのは生産プロセスを単純化するということでもあるのね……と強く納得させられます。
ちなみにこのキットの説明書には「キューベルというのはドイツ語でバケツの意味であり、これは車体がプレス加工でバケツっぽかったからではなく、バケツ型座席付きの車という意味である」という解説がついてます。「バケツ型座席」と言われてもなんのこっちゃという感じですが、これはいわゆるバケットシートのことでして(バケットもバケツも発音の違いで、要はバケツのことですね)、確かにプロトタイプであるタイプ62にはバケットシートがついてます。不整地走行の揺れから乗員を保護しつつ、戦闘の際にはシートベルトをいちいち操作しなくても車両から素早く出られるように……という配慮からバケットシートをつけてみたということなんですが、タイプ82では普通のベンチシートとほとんど変わらないような座席になっちゃっており、もうなんもわからんですね。
というわけでタミヤのキューベルなんですが、初代キットは1970年10月に「No.6 キューベルワーゲン」として発売されています。MMのソフトスキンキットは同年5月発売の「No.3 ドイツ シュビムワーゲン」が第一弾なんですが、それに続くキットだったわけですね。さすがにこのキットはベテランすぎるということで1997年に発売されたのが、今回の「No.213 ドイツ キューベルワーゲン82型」なのです。







キットのランナーは大きく2枚。それに一体成型の車体底面&フェンダーの部品がつきます。90年代にリニューアルされたキットなだけあり、こちらのキューベルは今でも全然通用するシャープさ。さすがに1970年のキットと比べるとパーツ分割は細かめですが、旧作では省略されていた前後のサスペンションアームやリアのリダクション・ハブも組みやすさに配慮した上で再現されており、「決定版にするぞ!」という意気込みを感じます。先述のようにエンジンが収まっているのは車体後部。なので、そのあたりはメカっぽい部品がガチャガチャしています。


そして、このキットのもうひとつの見所が付属しているフィギュア。単品だとオラついたドイツ兵がヤクザキックしてるようにしか見えないんですが、車両に乗せると片足を踏み出しつつ肩肘をドアに乗っけたポージングになっております。後ろに開く前席のドアは肘を乗っけるのにちょうどよかったようで、当時の写真などを見ていてもこういうポーズの人はけっこう写っています。こういうカチッとしてないポーズのフィギュアがついてくるのもいいんですよね〜。

完成してみると、もともと乗用車をベースにしているだけあって意外に車内が広そうなことに気がつきます。ちゃんと4ドアで後席がしっかり「座席」の格好をしているところとか、電動で動作するワイパー(これは後に軍用車両には不要ということでなくなっちゃってますが)がついてるとことか、プレス加工のそっけない見た目の割にはけっこう配慮があるんですよね。ジープなんか後席は「ちょっと板がついてるだけ」みたいな感じだし、ドアなんかひとつもないし、ワイパーも手動(途中から動力式になりましたが)というスパルタンさですから、これはやっぱり民生用の乗用車がベースか、最初から軍用の万能小型トラックを作ろうとしたかという差なんだろうなあと思います。

というわけで、戦車と並べてもよし、単品でササッと完成させてもよし、さらに別売りの「No.220 ドイツ キューベルワーゲンエンジン整備セット」と組み合わせて整備中の風景を再現してもよし(実際キューベルはクラッチなどがよく壊れたらしい)、ジープと並べても面白いというこのキット。おひとつお手元にぜひ!!!