エヴァ、ナディア、東京オリンピック/何層にも意味を重ねたエッフェル塔のプラモを組む。

 最初に言っておくけど、エレールのエッフェル塔のプラモはすごい。正直いままで作ったプラモの中でもいちばん楽しかったと言えるくらい、最高の体験でした。作るのは決して簡単ではないけど、パーツがそんなに多いわけではないのでじっくりと慎重に取り組めば驚くべき大きさと迫力のエッフェル塔が自宅に生えます。マストバイだね。

 『シン・エヴァンゲリオン』を観てすぐに買ったエレールのエッフェル塔。冒頭で真下から写されるカットが松浦寿輝の『エッフェル塔試論』表紙と呼応していることは以下のエントリで書いたとおり。「じゃあそれが何の意味を持ってるんですか」というのを書き出すと長大な論考を書かなければいけないし、まずエッフェル塔試論を読んでくれ!という話になってしまうので、そのへんをざっくり理解したい場合は『シン・エヴァンゲリオンを読み解く』のなかで松下哲也氏が足腰強く論じているので(文中にこのnippper.comも出てくるし)ぜひとも読んでほしい。とにもかくにも、シン・エヴァンゲリオンが徹頭徹尾「模型的な方法論」で作られていることは、観た人なら直感的にわかると思うんですよね。

 松浦寿輝は「エッフェル塔は(パリに建つ”ホンモノ”でさえ)模型であり、複製される記号であること自体が本体にほかならない」と喝破した。そうであったらどれだけクールだろう、と僕も20年ほどこの言葉を反芻していたのだけど、まさかプラモで本当にその意味を知ることになるとは思っていなかったというわけ。

 エッフェル塔の形状が、その構造が、みるみる手の中で再現されていくのはエッフェル自身が残した建設途中の写真たちを工作机の上で再度目撃するのと同じ体験なんですよ。エッフェル塔のホンモノが模型なので、模型もエッフェル塔のホンモノなんだぜ……という一見詭弁に感じる松浦の言葉が、フィジカルに理解できた瞬間。すっごい。

 四角錐に近いタワーを組み立てるため、ランナーは同じ形状のものが4枚2セット(+上下段の展望台と尖塔のパーツを含んだ1枚の計9枚)用意されます。リベットや補強板までわりと繊細に表現されていて、舶来プラモのどんよりとした彫刻を想像していると良い意味で裏切られます。各面を箱組みしていく必要があるので、パーツの端にはきちんと溝が用意されていて、そこに隣の板をスッとハメて接着するとピシャリと組み合わさるように設計してあります。

 このプラモは流し込み接着剤の独壇場(むしろ、流し込み接着剤がなかった頃にこのプラモを組立てていた人はどうしていたのだろうか?)。タワーが歪まないようにしっかりと仮組みを繰り返しながら、貼るべき場所に速乾性の流し込み接着剤をツーっと置いていきます。宇多田ヒカルのアルバムを大音量で流しながら、ワンコーラスの長さを意識してパーツが固着するのを待つという大興奮タイムが延々続くので、コレを読んだらほんとに真似してほしい。

 組み立てると理解できるのですが、思いもよらぬところでパーツ同士が接合して剛性を確保するようになっています。なんでここスキマ開くのかなぁ……と思ってると、そこにあとからバシーっと違うユニットが割り込んできてピッタリ収まるという感じ。何も考えずに組んでいると歪んでしまうので、ところどころで形状を馴染ませながら貼るという力技が求められますが、ギシギシとプラスチックを歪ませながらジッと忍耐強く待つのが大事ですね。

 完成したエッフェル塔を空に掲げて下から覗き込む。観たかった景色がそこにある。エッフェル塔がこの世にまたひとつ増殖し、私をパリへと誘うワープ装置となった瞬間。

 きっかけはエヴァでもいい。ナディアでもいい。東京五輪の閉会式で見た(あまりの華麗さに悲しくすらなる)パリ五輪の紹介ムービーでもいい。エッフェル塔は、模型店で買える。組み立てて覗き見て、イメージを自らのものにする。こんなにおもしろいプラモは、そうそうありません。断言しちゃう。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。