

極薄の金属板を加工して作られる「エッチングキット」という世界があります。プラモデルを嗜む人からは「プラスチックでは再現できないような薄いものや細いものをプラモデル以上の表現力で見せる」という目的で取り入れるディテールアップパーツとして知られていますが、エアロベースというメーカーはエッチング加工された金属の薄板だけで全体を組み上げていくという手法でさまざまなものをキット化しています。
>エアロベース 1/1000 エッフェル塔(30cm高)ステンレス製キット [E001]
私のものの見方、考え方、模型というものに対する態度を決定づけた『エッフェル塔試論』という書物があるのですが、おかげさまでエッフェル塔は私にとって非常に重要なモチーフです。プラモデルでは仏エレール社から1/650スケールで立体化されていますが、エアロベースからは1/500と1/1000の2スケールで発売されています。私が組んだのは1/1000スケールのキット(全高312mm、土台の幅125mm)ですが、その中身は芳醇そのものでした。

3色の台紙に3枚の金属板。そのモチーフは言うまでもありませんが、「キットを開梱する瞬間の高揚感」をここまで美しくデザインするなんて、本当にステキです。クローズアップで撮影すると、厚さ0.2mmの金属板の厚みに対して、どれほどこまかな彫刻が入っているかがわかります。こんなに繊細なパーツをどうやって切り離し、組み上げていくのか……と心配になります。

ステンレスは何回か曲げると簡単に破断します。本キットはその特性を活かし、薄くなった部分を手でクニャクニャと曲げれば一瞬でパーツごとに取り外せるようになっています。組み立ては基本的にパーツ同士のかみ合わせなので、スリットにパーツを差し込む/ピンセットを使って爪を曲げたりひねったりする……のどちらかで着実に組み上がります。

パーツ状態での撮影時、ステンレスの表面の美しい光沢に指紋がハッキリと転写されてしまうことがわかったので、ビニール製の極薄手袋を装着して組み立てました。ピンセットだけでは曲げづらいパーツもあるので、先の細いペンチも用意しておくと力仕事が楽になります。

正直言って、薄い金属版を組み上げて作る模型というのは「飛行機の骨組みを再現するのにはいいかもしれないけど、建造物をモチーフにすると、文字通り紙細工のようなチープな見た目になるはずだ」という先入観が私の中にありました。しかし、1/500スケールともなれば、話は別です。このサイズで、そっと生活空間に置いて鑑賞する……という用途においてならば、プラスチックモデルでは表現できないほどの緻密な構造を再現しつつ、強度と組み立てやすさと精度のすべてを両立できる素材はおそらくステンレスの極薄シートをおいて他にないでしょう。

素材のしなりをうまく活かしてパーツ同士がカチリと組み合わさり、微細な文様の刻まれた板のようなものが立体として立ち上がり、さらに実物がそうであるようにしっかりと自立する剛体へと変貌していくさまは、まさにギュスターヴ・エッフェルが描き、実現したエッフェル塔そのもの。その似姿の再現性、模型性こそがエッフェル塔の本体であると断言した松浦寿輝の言葉が、プラモデルを組んだとき以上に実感を伴って心に迫ります。

白いケースに収められたステンレス板の真ん中に、三色旗のリボンが嵌め込まれています。なんとニクい装飾だろうか(ともすれば、ちょっとイヤらしい感じすらするぞ……)と思っていたのですが、これまた無駄なく機能するパーツとしてそこにあるべくして存在しているということに驚かされます。これは組んだ人にしか伝わらないと思うので、このへんにしておいて……。

四隅の土台はホワイトメタル製のズシリとした重みを持ち、寸分の狂いもなくエッフェル塔が眼前に立ち現れます。組み立てに特殊な工具は不要ですが、しかし組み立てそのものは「簡単至極」というわけでもありません。細かな折り曲げ、慎重な組み付け、根気を要する反復作業もところどころに顔を覗かせます。しかし、輝く美しい彫刻が終始目を楽しませてくれるおかげで嫌になる瞬間などひとつもありません。長い夜に、エッフェル塔を組み上げながら過ごす甘美な時間をみなさんもぜひ過ごしてください。ニッパーは使いませんが、あなたのプラモデルライフにも新しい視座と確実なスキルアップを約束してくれる、すばらしいプロダクトです。