「全作例がファントム」のスケールアヴィエーション最新号に見る、プラモの過去・現在・未来。

 「みんなが知っている。みんながファントムになにか言いたい。インターネットが普及するにつれ、いろんなメーカーのいろんなファントムのキットを作り、その再現度や組み立ての難所についての攻略法がテキスト化され、共有された。実機写真集も数え切れないほど出版され、もう地球上を飛んだファントムについてわからないことはひとつもない、といっていいくらいに情報は溢れかえっている。」(特集冒頭テキストより/執筆・からぱた)

 F-4ファントムIIはとにかくメジャーな戦闘機。通算5000機以上が生産され、世界10カ国以上で運用されたとあって、世界の著名なスケールモデルメーカーを見てもファントムをリリースしていないところを探すほうが難しい。みんなそれらを買ってはウームと唸ってきた。要は、めんどくさい飛行機なのだ。カタチもへんてこだから再現するのが難しいし、実機資料がめちゃくちゃあるから「ここが違う、あそこが違う」というプラモ特有の悩みも尽きない。もっと言ってしまえば……「いいのいいの、ファントムに見えればそれでいいじゃん!」というのが成立しにくいのだ。

 どっこい、ここ数年は間違いなくファントムフィーバーと言える状況にある。造形村、ファインモールド、エアフィックス、タミヤと立て続けに新しい設計のキットをリリース。長いこと使ってきた航空自衛隊のファントムも運用終了とあって、とにかくなんだかファントム界隈が盛り上がりまくっているのだ。

 じつのところ、ファントムはめちゃくちゃ有名だし人気がありそうなのに、プラモのセールスや関連書籍のセールスは零戦や大和やタイガー戦車といったスーパースターには及ばないという。それでもこれだけファントムのプラモがリリースラッシュを迎えているのは「やっぱりいつかちゃんとしたファントム作ってみたいよな〜」という気持ちをたくさんの人が持っているはず!というメーカーの期待と情熱があるからだろう。

 スケールアヴィエーション最新号の特集は、「とりあえずファントムがたくさん発売されたからそれを紹介するよ」という類のものではない。すべての作例がファントム。古今東西のキットを、それぞれのモデラーが作りながら、その思いの丈を叫んでいる。

 ただ単に「このキットのここがすごい!」という話でもない。それぞれのアイテムの持つ素材としての長所をモデラーがどう見て、その長所を生かしてオリジナリティのある模型を作るというのはどういうことなのかが見て取れる。

 さらに、過去と現在における「ファントムの模型」が置かれた環境について振り返り、分析する姿勢も忘れてはいない。とくに、野中寿雄と後藤仁の両氏による’80年代のファントム模型/関連書籍についての証言はベテランモデラーにとってもヤングな世代にとっても示唆深く、「なるほどファントムが大変なモチーフであるわけだ」という納得と「本当にいい時代になったな!」という爽やかな感動が得られること間違いなしだ。

 ここ最近プラモを始めた人(あるいは出戻った人)にとって、「ファントムの新しいプラモが出たよ!」というニュースは当たり前のように思えるかもしれないのだが、さにあらず。まさに異常事態と言えるこの歴史的な特異点を記録し、「過去のファントム模型への呪縛」と、これから訪れるであろう「自由で開かれたファントム模型の時代」を記録する貴重な一冊になっている。

 ……という解釈を踏まえた上で眺める手島優の巻頭グラビアもすごい。本誌には実に10年ぶりの登場となる彼女のエヴァーグリーンな笑顔とスタイルは、まさしく本特集のテーマと呼応しているのではないだろうか。

<a href="/author/kalapattar/">からぱた</a>
からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。