「絶対に作ってほしいから、デカールは減らしておきました」という英断。/タミヤ 1/48 F-4B ファントムII

 飛行機プラモに欠かせない「注意書きのデカール」。なかでもF-4ファントムファミリーはとにかくその量が尋常じゃありません。通常の飛行機にも見られるような注意書きに加え、点検時にパネルを付け間違えたりしないよう機体表面にびっしりとナンバーが入っています(上の写真は航空自衛隊のRF-4E)。

 静岡ホビーショーでも大注目だったタミヤの1/48傑作機シリーズ最新作、F-4BファントムIIですが、すでに多くのパーツ写真がネット上で公開されているため、nippperはむしろ本作のデカールに注目。というのも、タミヤは今回の製品で「デカールで機体に入れられた全部のマーキングを網羅しない」という選択をしているのです。つまり、「別売りのデカールセットを買ってこないと実機通りのマーキングが再現できない」とういうこと。

▲こちらがキットに付属するデカール。3つのマーキングを再現できますが、小さくて大量にあるアクセスドアの番号はある程度省かれています。

 極論すれば、不完全な製品。こう書いてしまうと、「なんで最初から全部入れてくれないんだ!」と思う人もいるかもしれません。”完璧”なファントムを作りたければ、もとのキット代に880円くらい上乗せされたっていいという意見もあるでしょうし、「デカール買うために追加で880円出費する」というのがなんだか腑に落ちない、という人もいるでしょう。

 でもでも、おそらくそこには何らかの意味があるはず。ということで、ホビーショー会場にてタミヤの開発担当氏にそのワケを教えてもらいました。

 「ファントムはとにかくコーション(注意書き)やナンバーが大量に入った機体です。すごく組みやすいキットにしたのに、デカールにこれがすべて印刷されていると、どうしても『これを全部貼らなければいけないのか……』という圧力のようなもの、強迫観念のようなものが生まれてしまうと思うんです。しかし、実際にこまかなナンバーが省略されていたとしても、主要なマーキングとコーションデータを貼れば、充分に見栄えのする完成品になります。パッケージを開けて、デカールの量に慄いてそのままフタを閉めてしまうのではなく、『よし、組んでみよう』と思ってもらえることが大事だと思ったので、細かなアクセスドア注意書きを別売りとしました」

▲こっちは別売りデカール。本体付属のものと合わせてようやく「ほぼ実機どおり」になるわけです

 正直、ここまでのお話は実は予想の範疇内でした。しかし、その続きがあったのです。

 「ただ、『注意書きを貼らないと実機と違うものになってしまう』というのにどうしても抵抗を感じるユーザーもいるはずです。じつはキットのデカールで再現できる3種類のマーキングのうち、Bのパターン(VF-111″サンダウナーズ”飛行隊長機)」は搭載されていた空母コーラルシーから海軍の地上基地に移動し、メンテナンス後にすべての塗装をリフレッシュした状態を再現しています。注意書きが入っていない状態を再現しているので、VF-111を選べばむしろ別売りデカールを(そしてキットに入っている細かな注意書きすら)貼らないことが実機どおりになるのです」と。

 衝撃……。圧倒的おもてなし……。

▲たくさんのこまかな注意書きが入ったVF-161所属機
▲注意書きがほとんど入っていないVF-111所属機。手抜きではなく、これが「正解」なのだ

 ひとつのプラモを前にしても、実機の徹底再現をしたい人やサクッと素早くカタチを見たい人などなど、いろいろなタイプの楽しみ方があります。しかし、ハコに入っているものはぜーんぶ使わないとなんだか申し訳ない気がする……というのは誰にもある感覚。せっかく自分でお金を出したプラモですから、「これはあえて使わない」という判断を自主的にするのは、すごく難しいですよね。

 どっこい、タミヤの新しいファントムは「使わない/全部使う/別売りのも買ってくる」という選択肢を用意し、しかも「実物通りにしなきゃだめかな……」と悩むモデラーを救済する道をあらかじめ示してくれているのです。

 全部やらなくてもいいし、全部やったときの感動もある。でも、それを自分で選び取るのってなかなか難しい。そんなプラモを作る人の心理をものすごく的確にとらえ、キットに同梱するマーキングチョイスと「デカールの別売り」という方法でバシーッと可視化したタミヤの戦略。デカール一枚、塗装図一枚でも、ここまで深イイ話を用意してくれているというのが、やはりトップメーカーのトップメーカーたる所以だなぁ、と心から納得したのでした。

<a href="/author/kalapattar/">からぱた</a>
からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。