レビュー/やめられない止まらない。ファインモールドの「ナナニイファントム」を君はもう組んだか。

 ハコを開けたらどーんと胴体が出てきて、あらこれはもう勝ちましたねという感じ。ファインモールドから新発売となった1/72のF-4EJとF-4EJ改、もう組みましたか。まだ組んでませんか。とりあえずジェット戦闘機のプラモを組んでみたいけどなにがいいかな〜と思ってる人はこれを買って「しぇ〜!」っていう気持ちになってみてください。

 このプラモはホントにランナーの写真でどうこう言うよりも組んでみるしかないっちゅう感じで参ります。当然最新のパリパリのキットなのでディテールは細かいしファインモールドならではのビシっとしたスジ彫りとか異常に細かい計器盤とかは見ていて楽しいのですが、これが絵に描いた餅じゃなくてスパスパ組めちゃうことのほうが個人的にはスゴイと思う。

▲もはやセクシーですね
▲斜めに垂れ下がる水平尾翼の角度が決まるように真ん中で握手する構造
▲君はデカール貼る派?それとも塗装派?と問いかけてくる選択式の計器盤。
▲1/72でここの超小さい穴を再現しまくってるのが金型技術的にはスゴい。

 ファインモールドはこだわりがあってモールドが細かくて云々、というのはスターウォーズのプラモとかがマスメディアに報道されるときの常套句として独り歩きしまくってる感じがあるのですが、ファントムですよファントム。手垢が付いているどころか「ファントム出してないプラモメーカーあります?」ってくらいいっぱい模型があるんですよこの飛行機。

 なのになんで2020年にファインモールドが完全新規金型という膨大なコストをかけてコレを作ったのか。それは組む前からなんとなく分かっていたのですが、組んだらやっぱり「なるほど〜」と思わされるのです。

▲なんせハコ開けて2時間くらいでこんなんなってたんだもん。

 プラモって「正確」とか「簡単」とかで語られがちですけど、一番ユーザーにとって強烈な記憶として残るのは「スルスル作れた」という感触だと思うんですよね。難しいけどスルスル作れるとか、正確だけどスルスル作れるとか、パーツ数がめちゃくちゃ多いんだけどどういうわけかスルスル作れる、というのが「ああ、なんだか気持ちのいいプラモだったな」という記憶になる。そういうのを一部の人達は「組み味」と呼んでいたりして、プラモの企画開発設計みたいなところでかなり難しい言葉にできない阿吽の呼吸がないと実現しない部分だと思うのです。

 「いや、プラモは苦労するもんでしょ……」というツッコミにあえて応えるなら、プラモのわがままに付き合って「なんでオレこんなにしんどいプラモを作ってるんだろう(でも楽しい)」と苦楽を味わうのではなく、苦楽のありかをグッと自分のほうに引き寄せて、「あれをしてみよう、これもやってみよう!」とポジティブに悩めるところに”プラモの組み味の良さ”があると思うんですね。旅の途中で余力があると、グッと行き先の幅が広がるように。

▲このスリットがスライド金型で再現されてるのも偉いし
▲セミの腹みたいなところがちゃんと金属板の重なりに見えるのも偉い
▲ただ、ここまでスポーンと止めどころがなく進んじゃうことがいちばん気持ちいい

 ファインモールドがモデルグラフィックスと何度もタッグを組んで送り出してきたマガジンキット(月刊の模型専門誌にプラモが付いてくるやつ)は「ただ単にいいプラモを沢山作りました」ということではなくて、誰でもすげえ精密なプラモが作れるぞ、というキットが存在できることのデモンストレーションでもありました。

 このファントムも「これは多分誰でも組めるだろうな」と思えるだけの親切すぎるパーツ分割と、しっかりしたノリシロや位置決めの確実さがあります。どうやれば合うのか、どうやればキレイに進むのかに神経質にならなくても、ただ実直にパーツを切り出してスッと貼っていけば、ピシッと組み立てられます。

▲ここがちゃんと合うファントムのプラモってあんまりないんですよ

▲スンッ、と合う。
▲背中の合わせ目も消さなくていい。

 当然組むだけじゃなくて塗ることも考えてある。ユーザーはひたすら組み立てながら「それならオレはどうやってこれを自分のプラモにしようかな」と考えていられる。自動運転の自動車に乗りながら、ガイドブック片手に旅の行き先を考えたり、途中で食べる海鮮丼の具を夢想したりできるような感じがあるのです。

▲塗り分けめんどいな〜って思ってたところ、だいたい分かれてます。ありがとう!

 そういうわけで、説明書を見ながらツラツラと組み立てて「おお、ここにはこんなディテールがあるのか」とか「ここはこういう分割にしたのか!」なんて驚いているうちに「そうだ、単色で日の丸の似合うビビッドな色……秋水みたいなオレンジを塗ってみたいな」という、塗装のことも並列で考えられる。最初に全部手順を考えて、プラモをひねり倒してなだめすかしてなんとかゴールするのではなく、気ままなジョギングのようにあちらこちらへ思考を巡らせながら、思ったところにたどり着けるのです。

 世には沢山のプラモがありますが、結果に向かって格闘戦になるか、導かれるがままに最初から決まったゴールへとひたすら進んでいくものが少なくありません。そんな中で、指先を通して開発や設計をした人との対話をしながら「よし、じゃあオレはオレのゴールに向かうね!」とルートを決めることのできるプラモというのはとても少ない。

 ファインモールドのファントムは、とてもいい組み味でプラモの楽しいところを僕らに残してくれています。金型が新鮮なうちに、このピチピチの素材をあなたの美味しい料理に変えてみてください。きっと、戦闘機のプラモを組むのが楽しくて仕方なくなるはずです。

 みなさんも、ぜひ。

<em><a href="/author/kalapattar/">からぱた<br></a></em><a rel="noreferrer noopener" href="https://twitter.com/kalapattar" target="_blank">@kalapattar</a>
からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。