窓の向こうに見える過去を黒く塗りつぶして、未来に進むためのプラモデル。

▲Scaled Composites Model 339 SpaceShipTwo & Model 348 WhiteKnightTwo

 2011年7月、スペースシャトルが引退した。あの飛行機のようなロケットのような、奇妙キテレツな乗り物が空を飛ぶことは二度とない。そしてその瞬間、アメリカ人は自らの力で人間を宇宙に連れて行く方法を失った。前後して、民間のいろいろな会社が有人宇宙飛行のためのアイディアに金を注ぎ込み、ありとあらゆる計画を発表してオレをワクワクさせた。

 なかでもヴァージン・ギャラクティック(ヴァージン・グループの総帥が立ち上げたアメリカの企業だ)が見せたスペースシップワンとスペースシップツーは異彩を放っていた。双胴の飛行機とシャトルが合体して空を飛び、高空でシャトルだけが分離して宇宙に向かい、最後に変形しながら帰還する姿はただひたすらにかっこよかった。当時、ドイツレベルから発売されたスペースシップツーのプラモはすぐに買った。2013年のことである。

 飛行機にも宇宙船にも窓がある。厚ぼったいクリアーパーツを内側からハメることでそれを再現するプラモなのだが、当時の自分はこれに苦悶した。まずガラスが厚ぼったい。シャープで軽やかな宇宙機にヌメッとしたプラスチックの厚みが同居することが耐えられなかったのだ。

 そしてもうひとつ、この窓を避けて機体に白を塗る方法が思い浮かばなかった。「マスキングをすればいい」と頭ではわかっていても、美しい機体の特徴的なこの窓ガラスを、ホンモノそっくりに美しくマスキングする方法は思い浮かばないし、なによりも面倒だったのだ。

 青い瞳がこちらを見つめる美しいデカールを何度眺めただろうか。これを貼ったらどれだけ美しい宇宙機が手に入るだろうかと何度も夢想しては、ハコにしまった。このキットを手に入れてから、オレは5回引っ越した。手放したプラモがあり、完成したプラモがあり、そしてこのスペースシップツーは、ハコに入った状態でいまも手元にある。

 そうこうしている間に、イーロン・マスクは垂直に離着陸する悪夢のような(そしてその奇妙さ故に恐ろしく未来的なビジュアルの)ロケットを現実のものにし、アメリカの土地から国際宇宙ステーションに人間を送り込むところまでたどり着いた。ジェフ・ベゾスもまた、似たようなロケットの実験に成功している。

 いつの間にか、あの日夢見た「最先端の民間宇宙旅行機のプロトタイプ」は「いつまで経っても具現化しない夢の乗り物」になりつつあった。ヴァージン・ギャラクティックは先日、スペースシップIIIという機体の開発を発表し、いまだスペースシップツーは民間人の商用宇宙旅行を実現できていない。

 ふたたびハコを開ける。輝かしい「今の自分」と「今の世界」を繋いでいたはずのプラモデルは、「昔買った、あやふやな未来を示す何か」に変わり果てていた。デカールはほんの僅かに黄ばみ、キットは間違いなく自分と同じだけ歳をとっていた。

 スペースシップツーの胴体の中をぐるっと黒いマーカーで塗る。もう、なにかに期待しない。美しく作るための天啓が降りてくることもない。ただ、プラモを作るのは自分なのだ。このプラモと自分の折り合いを付けるのは、自分しかいない。

 そしてちょうど昨日、この機体は初めて宇宙空間に到達することができたのだという。そんなニュースを横目に胴体の左右を貼って、特徴的なカタチの翼を付ける。思い悩んだ窓ガラスはゴミ箱に捨てよう。胴体に穿たれたシャープな窓のカタチの向こうは、漆黒の宇宙。これでいい。そうわかったら手が動く。明日は母船であるホワイトナイトツーの胴体の中を黒く塗って、夢見たカタチを手に入れようじゃないか。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。