世界イチ『スター・ウォーズ』の制作現場に近いプラモ。/スレーヴIでILMのプロップ工房を疑似体験!

 ディズニーが作ったスター・ウォーズの中で間違いなく一番面白い『マンダロリアン』をシーズン2まで全話見てからというもの、おれは完全に”スター・ウォーズめっちゃ面白い期”に入ってしまった。特に株が大上昇したのが、ご存知銀河最強の賞金稼ぎボバ・フェット。マンダロリアンを見た人ならなんで株が上がったかはご承知の通り。見てない人は今すぐ見ましょう。ディズニー+のアカウント作るのめっちゃめんどいしクオリティが高いとは言えないサービスだけど、それでも少しでもスター・ウォーズが好きならマンダロリアンを見ろ。見るんだ。

 見ましたね? というわけでまんまとおれはバンダイのフェットのプラモを買って速攻で組んでハゲチョロを描いて「う~ん、ペンキ塗りたてのフェットもいいけどやっぱり塗装が禿げてると落ち着くな~」と悦に入り、そして「どうせならマンドーくんと一緒に大暴れしてたスレーヴ1も……」とそちらのプラモデルも買った。で、このバンダイの1/144 スレーヴ1、とんでもないキットだったのである。

 ご存知の方も多いと思うが、昔のスター・ウォーズはCGとかがあんまりちゃんとしてなかった頃の映画なので、実際の宇宙船よりずっと小さく作った模型をカメラで撮影して、背景と合成したり特殊効果を足したりして宇宙船が飛んでるシーンを作っている。このビークル類の撮影用モデル(プロップと呼んだりする)は大量のプラモデルの部品を貼り付けてディテールが作られており、どの機体のどこに何のプラモデルの部品が貼り付いているかを頑張って調べて突き止めるのが趣味という人が世界中にいる。バンダイもプラモデルを作るにあたって、この撮影用モデルを解析し、それを元にキットを設計したわけである。

 しかし、バンダイのミッションは、あくまで「組み立てるとプロップの形になるプラモデル」を作ることである。だから解析した結果をもう一度プラモデル側の都合に落とし込む必要が生まれる。例えば別の部品が複数くっついていた部分が、全部船体の一部として一体で彫刻されていたりする。ごちゃごちゃしたメカのパーツを後から機体本体にくっつけるにしても、本来なら複数のプラモデルの部品で構成されているはずの部分が、ひと固まりのパーツになっていることもある。プラモデルだから当たり前だけど、プロップの都合とプラモデルの都合で言えば、プラモデルの都合が勝つことが大半である。

 しかし、この1/144 スレーヴ1は違った。なぜかこのキットだけは、プロップの都合の方がプラモデルの都合に勝っている。例えばスレーヴ1のアイロンのような形をした機体の底面にはごちゃごちゃといろんなメカっぽい部品が貼り付けられているが、それが「貼り付けられた元のパーツ」の形でバラバラにされて、ランナーにくっついている。このキットを作る人はそれをニッパーで切って、機体底面にグサグサ取り付けるのである。

▲バンダイの檄文。「とにかくこれはプロップだから心しろよ」と書いてある
▲どう見てもなにか車のエンジンの横腹ですよね、これ
▲しかしエンジンの横腹が、こうやって機体の底面にくっつくと「よくわかんないけどメカだ」ということになる

 これがもう、死ぬほどエキサイティングだ。どう見てもF1のエンジンの側面の部品をもいで持ってきただけだろう、という部品がバンダイのパワーでキレキレのパーツになっており、それを接着剤なしでグサリと突き刺すともう機体のディテールになっている。機体底面の微妙なアールに一部だけが沿っている何かの車のフェンダーも、グサリと突き刺すとそれでくっついて「スレーヴ1の一部」になる。どう見ても何か別のプラモの一部にしか見えなかったものが、全く異なる意味を持って立ち上がってくる瞬間を、用意されたパーツの数だけ味わうことができる。

 ミキシングビルドという模型の作り方がある。簡単に言っちゃうと、いろんなプラモデルを買ってきてぐちゃぐちゃに組み合わせて自分の好みの立体物を作っちゃうという、スター・ウォーズのプロップ作りごっこみたいな遊びだ。おれはこれをちょっとやっていたのだけど、ミキシングビルドをやっていると、全然別の全く関係ないプラモデルの部品がなぜかビシーッと噛み合っていい感じの別物に見えてくる瞬間がある。

 このスレーヴ1は、何にも考えずにこのミキシングビルドの快感だけをず~っと味わえる、脱法ドラッグのようなプラモデルだったのだ。「ここにこういうディテールがあったらいいのにな~部品探すのダルいな~」という、ミキシングビルドにありがちな手が止まるタイミングがゼロ。スッ……スッ……と部品をくっつけていくだけで、めっちゃカッコよくてゴチャゴチャしたメカができているのである。しかもパーツを切って押し込むだけ。難しいことはひとつもない。

▲面白すぎて底面は一気に作っちゃった。アフリカかどこかのお面みたいだ

 このプラモデルを作っていると、1978~1979年のいつかにILMのモデルショップのスタッフが味わったであろう試行錯誤が、指と目を通して伝わってくるような気持ちになる。というのも、スレーヴ1の微妙なアールに、後からくっつけたパーツが全然沿ってないところがけっこうあるのだ。一箇所だけカーブのラインが合っているとか、ここは多少部品のチリが合ってなくてもごちゃごちゃさせたかったんだろうとか、ここには大ぶりな部品がドカンとくっついてるとカッコいいだろうとか……。

 ILMのスタッフの考えていたであろうことが、一つ一つの部品から立ち上がってくる。プラモデルの部品を貼り付けてこのプロップを作った男たちの、1978年の暑い夏に流した汗が、1979年の寒い冬に吐いた白い息が、プラモデルを作っているだけでおれの作業机の上にぼんやりと見えてくるのである。わかる、わかるぞ……。つまりバンダイの1/144 スレーヴ1はプラモデルの形をしたILMモデルショップ追体験装置、「VRスター・ウォーズの制作現場」とでも呼ぶべき代物なのだ。

 そうなってくると、このキットは可能な限り手抜きで時短、パッパと作ってしまうのが正しいということになる。考えてもみてほしい。おれが作っているスレーヴ1が完成しないと、クラウド・シティのシーンの撮影が始められないのである。カメラマンも照明もスタッフは全員イラつき、監督のアーヴィン・カーシュナーからはせっつかれ、ルーカスは不機嫌そうに黙っている。そんな中モデルショップでスレーヴ1の組み立てを任されたおれには、「まず下地を塗ってシリコンバリアーを塗って乾かして、それから上層の塗料を塗って丁寧に塗装剥がれをチマチマ入れる」なんて暇はないはずだ。できる限り早く、しかもスター・ウォーズのビークルとして説得力のある仕上げを施さなくてはならない。

▲実はもう完成してんだよな~

 というわけで、とりあえず形になったところで前半戦は終了だ。実はもうこのスレーヴ1は完成してるんだけど、おれが考えたILMのスタッフになりきった仕上げというのはどういうことなのか、もしかしたらまたここで書くかもしれない。というわけで、またサン・ラファエルのILMスタジオでお会いしましょう。チャオ!

しげる
しげる

ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。