ボバ・フェットの愛機に刻まれた歴戦の傷跡、キミは描く?それとも剥がす?

 珍しく考え込んでるんですよ。「スター・ウォーズに登場するメカってだいたいスス汚れとかちょっとしたキズを描き足しておけばそれっぽくなるじゃーん」と思って生きてきたんだけど、『マンダロリアン』にも登場したスレーヴI(ボバ・フェットが乗ってる宇宙戦闘機)はどう見てもゴビゴビに塗料が剥がれまくっている。バンダイスピリッツの「プラモは色分け済み!」とか「シールで再現!」というのが当たり前になってるけど、このスレーヴIだけはどうやってもプラスチックのままではイメージ通りにならない。さてどうする。

▲プラモの説明書に載ってる完成見本写真/じつは劇中であんまり見ないサイド

 説明書を見ても、細かいマーキングとかプラスチックの色では再現しきれなかった基本色についてはシールでフォローされてるんだけど、全体のガビガビな塗装については「こう塗れ」とも書いてない。つまり、完成見本を見ながらハゲを「再現」するしかないっちゅうことになりますな。

▲後ろから見ることもあるので、裏側のグレーは自分で塗りました。まずこれがファーストステップ。

 で、スレーヴIの塗装を観察すると「臙脂色のところは塗装が3層になってる」「グリーンのところは薄い色の上に濃い色が乗っている」みたいなことがわかってきます。問題は本物(劇中に出てきた模型)の塗装が本当に「剥がしてこうなった」のか、「剥げて見えるように描いたもの」なのかということ。世の中のスレーヴI製作動画を見ると、案外「剥がす」という手段をとっている人が多い。しかーし!

▲プラモの説明書に載ってる完成見本写真/劇中では裏焼きになってめちゃめちゃよく見えるサイド(ややこしい)
▲これが劇中で使われた模型(いわばホンモノ)の写真。京都博物館でやった企画展の図録より。

 これ、じっくり見ると「塗装を剥がした」のではなく、「剥げて見えるように塗ってる」が正解なんですよね。そんなんどっちでもええやーん、と思う人も多いかもしれませんが、映画の制作現場でめちゃくちゃなスピードでプロップ(撮影用模型)を作っているスタッフは模型スキルがめっちゃ高い人たちですから、時間がかからないのにリアル風に見える手練手管を持っているはず。だからじっくり見ると塗装が適当(濃緑色のところなんて、薄い緑の塗料を筆なりハケなりに含ませてからビシャって飛沫を飛ばしたようなテクスチャになっています)。3層に見えるのも「剥がれたように見える明色と基本塗装の間に中間色をランダムに置くことで下地塗装の存在をアピールしつつ剥がれた形状をうまいことコントロールしている」というのがホントのところでしょう。

▲この左右の緑のパーツの塗装の剥がれ具合についてうーんとか考えてるだけで1日が終わる。

 いやでもボバ・フェットが宇宙で賞金稼ぎをしているという設定なんだからハードな戦いで傷ついているわけで、実際に塗装を多層構造にして剥がすほうが「劇中のリアル」に即しているのでは……?と考えたあなた、それも正しい。要は「このプラモを通して映画で使われたプロップを再現したいのか、ボバ・フェットが乗っている宇宙船が本当にあったなら……と夢想するのか」によって、アプローチが異なるということになるわけです。うーん、楽しい。

 ということで、最初は「剥がしスキル」みたいなのを習得しようかなーと思っていたのですが今回はこうしたいろいろな思考によって「剥がれて見える書き込み」にチャレンジしたほうが俺の欲求にマッチしているぞ!ということがわかった、という話でした。プラモって、自分のイメージとホンモノ(ホンモノもどれをホンモノとするのかによってゆらぎがあるんですが……)の間にある媒体です。自分のイメージとホンモノをつなぐ経路は人の数だけ違うはずですから、プラモで表現されるそれぞれのアプローチも違うはず。「自分が何をしたいのか」を少しだけ考えると、自分の納得度も模型の説得力もアップするはずだと私は思うのでした。そんじゃまた。

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。