テキサスが広すぎる。正確にはテキサスコロニー。グランドキャニオンのような地形が箱いっぱいに入っていて、ずしりと重い。白と赤とピンクのランナーが入っていて、それぞれガンダム、ガンキャノン、シャア専用ゲルググが完成する。色分けなし、可動部なし。もちろん接着が必要で、組み立て用のダボ(パーツを正しい位置で噛み合わせるための凹凸)もない。だから、ポーズは自分のさじ加減で決まる。
現代の高性能な接着剤を使い、40年ほど前に作られたパーツをバシバシと貼る。目の前におそろしくかっこいいRX-78ガンダムが出現して、オレは唖然とした。踏み出した右足。左脚はつま先にぐっと力が入り、ソールは折れ曲がって踵が浮いている。左腕を突き出してシールドを身体の前に構えながら、右腕は敵から見えぬ位置でビームサーベルを下から上に振り抜かんと待ち構えている。
パーツはわずか15個ほど。サイズは数cm大だが、塗装すればド迫力だろう。もっとシャープでナウいディテールのガンプラがほしければいくらでも選択肢はある。もっと動いて好きなポーズにできるガンプラがほしくても、いくらでも選択肢はある。
しかし、ここにしかない力のこもった造形、アウトラインの繋がった流麗なモビルスーツの姿があると思うのだ。それをそのまま受け入れることは、ガンダムの歴史、ガンプラの歴史を自分の体験として味わうことにほかならない。「ほとんどの製品が当時の姿のまま、当時の値段で今も体感できる」ということは、ガンプラのすばらしいところだと信じて疑わない。
3体のモビルスーツを説明書のとおりに配置して、背景ボードを土台に立ててみる。あまりにも茫洋とした景色。しかしこれは、ガンプラがスケールモデルのリアリティに憧れ、戦車模型におけるジオラマ(=情景模型)が表現手法の真髄であったことを追いかけた証。
コロニーの外に追いやられたガンキャノンのことを思いながら、この緊迫感あふれるアムロとシャアの決闘にフォーカスしよう。「ジオラマ」がさまざまな付帯物で状況を表現する方法だとすれば、極限まで切り詰めた要素で構成し、最大限にシチュエーションを想起させる「ヴィネット」という表現方法がある。荒涼としただだっ広い大地をぐっと縮め、そこに張り詰める対決の空気だけを閉じ込める。そうだ、あの砂漠に出てきてもらおう。
■BANDAI SPIRITS ガンダム情景模型 1/250 テキサスの攻防 (機動戦士ガンダム)
■BANDAI SPIRITS 30MM カスタマイズシーンベース(砂漠Ver.)
■タミヤ メイクアップ材シリーズ No.110 情景テスクチャーペイント (砂 ライトサンド) 87110
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。