オレの愛したミニ四駆が「ラジコンのプラモ」であると気づいた日。/スコーチャー・ラヴ

 生まれて初めて親に買ってもらったミニ四駆は、なぜか「スコーチャーJr.」だった。自分でこれが欲しいと言ったのか、たまたまそこにあったのか、そもそも親じゃなくて祖父に買ってもらったのかすら思い出せない。タミヤのウェブサイトによれば、スコーチャーJr.は1989年11月発売とある。

 小学校に入りたてのオレは、スコーチャーという名前に濁点がいっさい付かないこと、見た目にも『ダッシュ四駆郎』に登場するマシンのようなわかりやすいカッコよさがないことが少し不満だった。しかし、濃紺のプラスチックにシールを貼って丹念に組み上げ、サスペンション(当時はそれが何を意味している造形なのかわからなかった)を銀色のマーカーで塗って、友達とレースをするでもなく「シュワー」と音を立ててタイヤが回るのを見ているうちに、そのマシンは間違いなく愛着のある存在へと変化していった。

 ニッパーを使ったのも、肉抜きをしたのも、ヤスリでボディのカタチを少し変えたのも、プラスチックに色を塗ると驚くべき変化があることも、あのミニ四駆が初体験だった。

 大人になってプラモに関わる仕事をしているうちに、ミニ四駆の箱がちらりと視界に入り、そこに「1/32スケール」と縮尺が書かれていることに気づいた。「そうか、これは実車があったとしたら、それを1/32に縮めたものなのか」と思い至るが、当然実車は存在しないから、これはガンダムのように「架空のクルマだけどリアルな雰囲気」を演出するための記号なのだとやり過ごしていた。

 大学時代、先輩とタミヤのRCカーで散々遊んだことを思い出す。ランサーエボリューションIVやコルベットがとんでもない速さで(しかし思うままにステアリングを切りながら)走る興奮は、RCカーを走らせた者にしかわからない。

▲こちらはTT-01Eシャーシに少々カスタマイズを加えたもの。パーツのひとつひとつが、美しい。

 焼け木杭に火が付いたのは、去年の暮れにクルマを手放した瞬間だ。自分の思うままに走らせられるクルマが欲しい。フォルクスワーゲンのシロッコはもし次にクルマを買う機会があれば手に入れたいとも思っていた。

 15年以上ぶりに組むタミヤのRCは、相変わらず最高にエキサイティングだった。巨大なモーターを組み込み、数々のギアが複雑に噛み合い、タイヤが路面の凹凸を拾いながらも操舵できる仕組みをシャフトやネジで組み上げていく。実物のクルマと根本原理を同じくする「動く模型」として、あまりにも学ぶことが多い。
 そうして、模型店でラジコンコーナーを眺めることが増えていった。バブルの絶頂期に発売されたバギーが復刻され、完成品となって売られている。折しも、スマホでは『ミニ四駆 超速グランプリ』がリリースされ、ホットショットJr.やホーネットJr.の姿をそのまま大きくしたRCカーたちが眩しく見える。

▲こちらも同様。普段はフォルクスワーゲン シロッコのボディが載った状態で飾っています。

 そう、往時のタミヤはRCカーとミニ四駆の二正面で同じデザインのバギーカーを売っていたのだ。ミニ四駆ではただの彫刻に過ぎなかった横一文字のサスペンションやスタビライザーは「3倍の大きさで実際に動作する機構」である。これはRCとミニ四駆をリアルタイムで同時に嗜んでいた人からすればあまりにも当然の事実なのかもしれないが、「ミニ四駆はRCカーの模型である」と認識して眺めると、それが恐ろしく精巧であることに驚かされるのだった。

 2月、ドイツで行われる世界最大のホビーの見本市、シュピールヴァーレンメッセにて1/10RCカー「テラスコーチャー」の復刻が報ぜられたとき、オレは出張帰りの新幹線の中で思わず声を上げてしまった。ついに、本物が手に入る。オレの初めての相棒の、”実車”が。

▲オイルダンパーを自分で組む!このワクワク感です。

 そしてようやく手にしたスコーチャーの箱の大きさ、天面に描かれたイラストの精緻さ。パッケージを開けたときにまばゆく輝くパーツたち……。巨大な巨大な感動がそこにはあった。
 当時銀色に塗ったコクピット後方の奇妙な彫刻は、当時のRCカーの機械式スピードコントローラーに必要なセラミックの抵抗をカバーするシールドだったのだということに気づく。同時にサイドポンツーンの膨らみはバッテリーを横置きに収める幅を意味しているのだとわかる(当然、ESCがスタンダードとなったいまは抵抗を露出させるための穴が埋められており、ところどころパーツの色も変更されているのだが、パッケージのイラストも当時のもののタッチをスポイルしないように修正されている)。

 このスコーチャーは、できる限り美しく組み上げて、いつまでも愛でたい。当時一緒にRCカーを走らせて遊んだ先輩も、息子と狂ったようにミニ四駆やRCカーを買いながら「やっぱり楽しいな!」とLINEを送ってくる。縦の糸と横の糸が絡み合って、みんなの人生を駆け抜けていく。

 30年以上の時を経て、初恋の人の本当の姿を知った日。オレは初めてのミニ四駆がスコーチャーJr.で良かったと思うし、いまここに大きなスコーチャーを手に入れて、誇らしい気持ちでいっぱいなのだ。

■タミヤ RC特別企画商品 No.142 1/10 電動RCカー スコーチャー (2020) 47442

■タミヤ 1/32 レーサーミニ四駆シリーズ No.64 テラスコーチャー RS (スーパーIIシャーシ) 18064

モデル/後藤あゆみ twitter Instagram

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からぱた
@kalapattar

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。

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