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プラモに甘えて完成させて、次に行こうぜ!/タミヤのRS1000が教えてくれるいくつかのこと。

 正直、怖かった。もう自分はプラモデルを完成させられないのかもしれない、と思うことすらあった。子供が生まれてから、家のなかの環境はずいぶん変わった。リビングの隣にある寝室は、テレビの音や話し声が聞こえてくるので大きくなってきた子供の寝かしつけにはどうも都合が悪い。というわけで先日、もともと自分がプラモデルを作るために使っていた部屋を寝室にして、リビングの隣の部屋に工作机や工具、塗料などをそっくり移すという大掛かりな模様替えを敢行した。おかげで子供が寝たあとは気兼ねなくドラマを見たり晩酌したりできるようになったのだが、模型部屋はちょっと狭くなり、塗装の自由度も少々減った。プラモデルを作るのに特化した空間を新たな環境に移すというのは、思っていた以上に心細いものだった。

 そんな折、熊本に出張した際に立ち寄ったマルエス商事で、タミヤの1/12 Honda RS1000 耐久レーサーを買った。旅先で買ったプラモデルはさっさと作ってしまいたいし、なにより家の新しい製作スペースで最初に完成させるものが欲しかった。リビングの隣で少しずつバイクが組み上がっていくのを、息子が横目に見ることだってあるかもしれない。なにしろこのキットは1982年に発売されたものだから、現代のバイク模型と比べれば部品の数も少ない。シルバーのプラスチックでエンジンやフレームが再現され、外装のパーツは最初から赤いプラスチックでできている。とりわけこの赤は透けがほとんどなく、箱を開けた瞬間から完成後の姿を想像できるだけの鮮やかさがある。これなら、なんとかゴールに辿り着けるんじゃないかと思った。

 さらに心強かったのが、今回の再販の大きなバリューである「イタリアのカルトグラフ社製デカール」だ。発色が良く、薄くて柔軟性のあるデカールが曲面にもよく馴染んでくれる。プラモデルをキレイに仕上げたいと思ったら、どうしても塗装のことを考えてしまうが、最初からいい色で成形されたカウルと、美しい印刷のデカールが揃っていれば、塗装しなくてもかなりの見栄えが望めるはずだ。今回の自分にとっては、それが何よりありがたかった。塗装する場所を確保し、道具を広げ、終わったら片付けるという一連の作業を省略できるなら、多少は気が楽だ。無塗装で完成させるという選択は、手を抜くためではなく、いまの自分の生活リズムでちゃんと最後まで作りきるためのものだった。

 子供が寝たあと、シルバーのパーツをひとつずつ切り離して接着していく。少ない部品でエンジンが組み上がり、フレームに収まり、前後のタイヤがついていく。シルバーの成形色は本物の金属とは違うけれど、銀色の部品を貼り合わせていくだけで、ちゃんと機械の塊っぽさを宿している。バッテリーだけは水性塗料を引っ張り出して筆で塗り、デカールを貼ったらちょっと失敗してしまった。翌日、工作机の上に置かれたRS1000を見た息子は「ここだけ塗ってあるねぇ」と言う。うん、よく見ていらっしゃいますね。

 カウルにデカールを貼るのは、さしものカルトグラフといえどもそれなりに難しかった。大きな面積を覆うものや急角度の曲面を回り込むものは位置を慎重に決めて少しずつ馴染ませていく必要がある。それでも、入り組んだ塗り分けのためにマスキングを繰り返し、エアブラシで何色もの塗料を吹き重ねることを考えれば、準備も片付けも圧倒的に少なくて済む。赤一色だったカウルに白と青のラインが走り、HONDAの文字が加わると、さっきまでただの赤いプラスチックだったものが、いきなり「レーシングマシンの外装」になる。エンジンもフレームも銀色のままなのに、鮮烈なカウルの色彩が全体を引き締めて、ボワッとしたプラスチックの造形が具体的な説得力を帯びる。

 最後に銀色のプラスチックでできたシートのパーツをマーカーで黒く塗り、すべてのパーツを組み合わせた。もちろん細かいところまで塗り分けたわけではないし、もっと手を入れられるところはいくらでもある。でもその姿は紛れもなく自分の手で完成させたプラモデルだった。翌朝、起きてきた息子は「お、完成しそうだねえ」とひとしきり眺めてから、「でも下半分がグレーのままだね」と生意気なことを言う。そうだね、よく見ていらっしゃる。でもパパにとっては、今回はこれで完成です。新しい環境で作った最初のプラモデルが、ちゃんと形になったことが嬉しいし、何よりホッとした。今度はもう少し込み入ったことにも挑戦できそうだ。無塗装で組み上げたRS1000が、そのビシッと端正な姿をもって、オレに「大丈夫だよ」と言ってくれたような気がした。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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