
福井県立の”恐竜なんちゃら”(恐竜博物館だったり県立大学の恐竜学部だったり色々あります)とは結構な付き合いになります。「フクイラプトルをタミヤがプラモデルにするので説明書に骨格図を使わせて♡」(大意)と福井県立大学恐竜学部准教授の今井拓哉さんから連絡をもらい、驚きと嬉しさと、それから「?」で脳内がオーバーフローした筆者です。
フクイラプトルといえば、その名の通り「恐竜王国福井」で初めて命名された恐竜です。頭骨がほとんど見つかっていないのはさておき、フクイラプトル(の生体復元)は文字通り福井県の「顔」として売り出されてきた過去があります。であればタミヤにおけるクリックロックという新ブランドの第1弾としてティラノサウルスを抑えるということもままあるかなんて思いつつ、なにしろフクイラプトルの既知の標本は(まだ未成熟のようですが)推定全長5m弱。これまでのタミヤの恐竜プラモデルと同じ1/35スケールだとすると相当にちんまい計算です。どういったキットになるのでしょうか?
そうして迎えた静岡ホビーショーで、1/35フクイラプトルは復元骨格レプリカや金型の特別展示を引き連れて颯爽とデビューを果たしました。接着剤不要の「クリックロック」仕様と故・田宮俊作会長の遺言めいたメッセージ、そして楽しい工作シリーズの新作恐竜まで引っ提げており、気合の入りようにただ怯えていた筆者です。手ごろな価格のこじんまりしたパッケージは店頭だとなかなかどうしてかくれんぼが上手ですが、投網をうって首尾よく捕獲することができました。シリーズ第2弾のフクイサウルスも発売前に押さえておくべきかもしれません。

フクイラプトル本体は長さ12cmほどの小さなキットですが、同じくらいのサイズ感の「1/35恐竜世界シリーズ ベロキラプトル」と比べてずっと細かく分割されているうえ、スライド成型を駆使したものとなっています。おまけキット(の詰め合わせ)という趣の「ベロキラプトル」とは異なり、正真正銘フクイラプトルが主役のプラモデルなんだぜ、という決意が伝わってくるようです。原型協力:荒木 “はり師カズやん” 一成さんということで、ランナーに付いているうちから荒木造形の香りが立ってきます。
現在進行形で分類が揉めている(≒復元の参考にすべき近縁種が定まらない)ところでもありますが、スライド金型を駆使した本キットの頭骨は紛れもない「最新復元」の結晶のよう。学会で筆者が椅子から転げ落ちかけた話はそのうち書くこともあるでしょう。

先行する「1/35恐竜世界シリーズ」では伝・ヒサクニヒコ先生像が付属していましたが、「クリックロック 1/35恐竜シリーズ」では誰でもない大人と子どものヒトガタが付属しています。接着剤を使って初めて組んだキットは「トリケラトプス情景セット」だったぜ、小学3年生の時に「恐竜博2002」のショップコーナーで買ってもらったんだぜ……と、かつての自分の姿をヒトガタに投影し、ちょっとセンチメンタルな気分に浸ります。

硬質のプラスチックを使った近しいサイズの射出成型品という共通点からか、パーツ分割に往年の「チョコラザウルス」(造形企画制作:海洋堂、販売:味覚糖)の後期アイテムの気配を感じ、またしてもセンチメンタルな気分に浸ります。しかし胴体内のフレームに各パーツを取り付けていく設計は現代のプラモデルらしいそれ。はっと我に返ります。

ほぼ同サイズの「ベロキラプトル」(実在のヴェロキラプトルをキット化したものではないらしい、という話はここではしません)と並べてみます。「ベロキラプトル」が発売された1990年代前半、ヒサクニヒコ先生をはじめ仲立ちする人はあれど、恐竜研究の最前線と市井の間にはまだまだ大きな隔たりがありました。ひるがえって現在では研究者と一般の人々との距離は大きく縮まり、監修したプロの研究者である服部創紀さん(福井県立大学恐竜学部准教授)の名前がパッケージに大々的に表示される時代ともなっています。恐竜研究の伝道師であったヒサクニヒコ先生像ではなく何者でもない/何者にもなれるヒトガタが付属する現代の恐竜プラモデルは、一般の人々が伝道師の肩越しではなく直に恐竜と向かい合う、現代の恐竜研究と社会のありようを示しているのかもしれません。

恐竜の骨格図を描いては方々に売りつける怪しい人になった筆者ですが、元を辿ればそのきっかけはタミヤの恐竜世界シリーズを改造しようとしたところに行きつきます。荒木一成さんの恐竜造形のきっかけは元祖・恐竜シリーズだったとも言います。「クリックロック」で組み立てのハードルがぐっと下がったタミヤの新・恐竜シリーズから、何者が生まれてくるのかも楽しみです。