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きまじめなプラモデル、きまじめな復元/ウェーブ フタバスズキリュウ

▲福島県いわき市ののどかな道を行くと、“フタバスズキリュウ産出地”にたどり着きます。川岸にちょこちょこ見えている双葉層群という地層は、今年で命名100周年になります。

 ひと月の延期を経て、無事にウェーブの「1/35 フタバスズキリュウ」が発売されました。恐竜プラモブームの波に乗っているような気はしますが、フタバスズキリュウは恐竜ではありません。でも筆者は、恐竜じゃない古生物までカバーしている恐竜図鑑の方が好きです。“恐竜時代”を語るのに恐竜だけとは!というのは至極もっともな話で、なんだか富野監督もガンダム公式百科事典でそんなようなことを書いていた気がします。気のせいかもしれません。

 フタバスズキリュウと言えば昭和の恐竜ブームの立役者で、ドラえもんの映画に出てきたやつ、と言った方が話が早いかもしれません。日本の古生物学を語る上で大変にありがたい首長竜なのですが、詳しい研究が世に送り出され、Futabasaurus suzukii(フタバサウルス・スズキイ)という学名が与えられたのは2006年とまあまあ最近のことなのでした。

▲”のび太の恐竜”のピー助の愛らしさは微塵もない、凶悪面の生き物です。国立科学博物館で常設展示されている実際の化石は、上下にひしゃげているためにさらにヤバい顔をしています。

 フタバスズキリュウのそんな話は、実のところパッケージにばっちり書かれています。説明書には監修の佐藤たまき先生(フタバスズキリュウの詳しい研究を主導し、学名を与えたご本人です)、原型制作に加えて説明書のイラスト・解説も担当した(株)ActoWの徳川広和さんの名前が大きく載っており、「誰の、どんな考えを下敷きにして」「どんなテイストが持ち味の人が」復元をビジュアライズしたのかが示されています。博物館に展示する一点ものの復元模型を多く手掛けてきた徳川さんの原型ということもあってか、展示品がそのまま机の上にやってきたような雰囲気を湛えています。

▲コンパクトに見えてだいぶ高さのあるパッケージですが、その犯人がこちら。2パターンを選択できる首のパーツが、首長竜の復元という魔窟にあなたをいざないます。

 ウェーブと言えばH・アイズとゾイドデカールで育った世代の筆者です。フルキットを組むのは初めてだったのですが、アンダーゲートさえきちんと処理すれば、がっちりした作りのフタバスズキリュウが姿を現します。タミヤの恐竜はパテでの合わせ目消しを説明書で煽り立てる容赦のないキットでしたが、ウェーブの首長竜はスナップフィットで合わせ目もそう目立つものではありません。頭と首はそれぞれポーズ違いが2種ずつ選べますが、太めのダボで差し替えるだけなので遊び放題です。

▲胴体の形状やヒレの肉付き、首の可動範囲等々、復元について議論の多い首長竜ですが、ゆったりしたこの佇まいは国立科学博物館の復元骨格のそれです。

 キットはスライド金型やアンダーゲートを駆使したもので、原型を余すところなくプラモデルとして届けようという設計の生真面目さが垣間見えます。説明書の最後には「フタバスズキリュウの色はわかっていない」と書かれていますが、それでいて完成見本のカラーガイドはしっかり載っています。復元という哲学そして塗装という遊びの入り口を示しつつ、「お手本」まで示してくるあたりも、このプラモデルにかかわった人々の生真面目さが表れているように思えます。

▲試作品を見て謎の興奮を覚えた筆者は国立科学博物館に向かい、なんらかの需要を見越して骨格図を描きました。筆者なりの(筆者が感銘を受けた意見を大いに参考とした)哲学の産物です。今のところお声がかかっていないので、ここで供養しています。

 プラノサウルスシリーズと違って、このフタバスズキリュウにはスケールが明記されています。キャラクター性を見出して推し出すのではなく、あくまで実際の形状の再現に重きを置く、というコンセプトの宣言のようにも見えます。

 “古生物の実際の形状の再現”にあたって、骨格のプラモデルであれば現存する形=実際の化石を直接参照するという安直かつ確実な手があります。しかし、肉付けされたもの=生体復元ではそうすんなりとはいきません。このキットでは直接の言及こそありませんが、パッケージアートとキットのポーズ、ひいては佇まい全体が、“実在の復元骨格”に肉付けしたものであることを雄弁に語っています。そしてその復元骨格は、フタバサウルス・スズキイの命名と時を同じくして組み直されたものなのです。

 カタチの議論が絶えないモチーフだからこそ、誰がどうやってプラモデル化したのかを示し、復元というひとつの哲学の産物であることを明らかにする。監修者、原型制作者、そしてメーカーの生真面目さが随所にうかがえるこの1/35フタバスズキリュウは、骨格のプラモデルを除けば“恐竜のスケールモデル”にもっとも近い立ち位置にいるのかもしれません。恐竜のプラモデルではないんですけど、ね。

G.Masukawa a.k.a.らえらぷす
G.Masukawa a.k.a.らえらぷす

1994年生まれ。恐竜の化石から骨格図を描き起こしてごはんを食べています。著書に「新・恐竜骨格図集」、イラスト展示制作に「恐竜博2023」、「ポケモン化石博物館」ほか多数。

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