ひと月の延期を経て、無事にウェーブの「1/35 フタバスズキリュウ」が発売されました。恐竜プラモブームの波に乗っているような気はしますが、フタバスズキリュウは恐竜ではありません。でも筆者は、恐竜じゃない古生物までカバーしている恐竜図鑑の方が好きです。“恐竜時代”を語るのに恐竜だけとは!というのは至極もっともな話で、なんだか富野監督もガンダム公式百科事典でそんなようなことを書いていた気がします。気のせいかもしれません。
フタバスズキリュウと言えば昭和の恐竜ブームの立役者で、ドラえもんの映画に出てきたやつ、と言った方が話が早いかもしれません。日本の古生物学を語る上で大変にありがたい首長竜なのですが、詳しい研究が世に送り出され、Futabasaurus suzukii(フタバサウルス・スズキイ)という学名が与えられたのは2006年とまあまあ最近のことなのでした。
フタバスズキリュウのそんな話は、実のところパッケージにばっちり書かれています。説明書には監修の佐藤たまき先生(フタバスズキリュウの詳しい研究を主導し、学名を与えたご本人です)、原型制作に加えて説明書のイラスト・解説も担当した(株)ActoWの徳川広和さんの名前が大きく載っており、「誰の、どんな考えを下敷きにして」「どんなテイストが持ち味の人が」復元をビジュアライズしたのかが示されています。博物館に展示する一点ものの復元模型を多く手掛けてきた徳川さんの原型ということもあってか、展示品がそのまま机の上にやってきたような雰囲気を湛えています。
ウェーブと言えばH・アイズとゾイドデカールで育った世代の筆者です。フルキットを組むのは初めてだったのですが、アンダーゲートさえきちんと処理すれば、がっちりした作りのフタバスズキリュウが姿を現します。タミヤの恐竜はパテでの合わせ目消しを説明書で煽り立てる容赦のないキットでしたが、ウェーブの首長竜はスナップフィットで合わせ目もそう目立つものではありません。頭と首はそれぞれポーズ違いが2種ずつ選べますが、太めのダボで差し替えるだけなので遊び放題です。
キットはスライド金型やアンダーゲートを駆使したもので、原型を余すところなくプラモデルとして届けようという設計の生真面目さが垣間見えます。説明書の最後には「フタバスズキリュウの色はわかっていない」と書かれていますが、それでいて完成見本のカラーガイドはしっかり載っています。復元という哲学そして塗装という遊びの入り口を示しつつ、「お手本」まで示してくるあたりも、このプラモデルにかかわった人々の生真面目さが表れているように思えます。
プラノサウルスシリーズと違って、このフタバスズキリュウにはスケールが明記されています。キャラクター性を見出して推し出すのではなく、あくまで実際の形状の再現に重きを置く、というコンセプトの宣言のようにも見えます。
“古生物の実際の形状の再現”にあたって、骨格のプラモデルであれば現存する形=実際の化石を直接参照するという安直かつ確実な手があります。しかし、肉付けされたもの=生体復元ではそうすんなりとはいきません。このキットでは直接の言及こそありませんが、パッケージアートとキットのポーズ、ひいては佇まい全体が、“実在の復元骨格”に肉付けしたものであることを雄弁に語っています。そしてその復元骨格は、フタバサウルス・スズキイの命名と時を同じくして組み直されたものなのです。
カタチの議論が絶えないモチーフだからこそ、誰がどうやってプラモデル化したのかを示し、復元というひとつの哲学の産物であることを明らかにする。監修者、原型制作者、そしてメーカーの生真面目さが随所にうかがえるこの1/35フタバスズキリュウは、骨格のプラモデルを除けば“恐竜のスケールモデル”にもっとも近い立ち位置にいるのかもしれません。恐竜のプラモデルではないんですけど、ね。