
タミヤからMMのドイツ・フィールドキッチンセットが再販されました。こちらは色々とエクストリームなところもあるプラモデルですが、その点も含めてぜひ体験しておくべき逸品です。

フィールドキッチンセットが発売されたのは、1978年の3月。No.103というシリーズナンバーから分かるように、MMも商品点数が100を超え、シリーズ開始当初のイケイケなリリースペースもちょっと落ち着いてきたころのアイテムです。箱に描かれているのは、見ての通り「馬車」。脛にモサモサと毛の生えた馬の様子は、いかにも力強くて頼もしいですね。

フィールドキッチンという商品名の通り、このプラモデルは糧食を調理するためのドイツ軍の炊事用馬車を題材としています。MMの中でも屈指の名文として知られているのが、その機能を紹介した説明書の解説文。ナチスドイツ期の外務省報道局長を務めた熱心なナチだったことがのちに判明し、現在では著書の資料性なども完全に否定されているパウル・カレルの文章が引用されているのは「時代だなあ……」という感じです。しかしそこに書かれた「実質的な下宿人料理」とはいかなるものかをフックに、昭和の日本人には想像もつかないような戦場のドイツ料理について解説したこのテキストは、自分も小学生の頃に読んで強く記憶に残りました。なによりこの文章に書かれている「シチューといってもよいほどこってりとしたスープ」が、すぐ後に書かれた「厳寒の東部戦線」の描写も相まって妙に美味しそうなんですよね。フィールドキッチンの機能について紹介しつつ、「戦場の裏方的な装備にこそ国民性が強く現れる」というシメも見事。未読の方にはぜひ一度読んでみてもらいたい、全盛期のMMらしい深みのある文章です。


中に入っているのはジャーマングレーで成形されたフィールドキッチン部分のパーツ、そして白で成形された馬2頭とフィギュア、各種付属品のパーツです。なんせ戦闘用ではなく食料を調理するための装備なので、ついているパーツもいつものMMとはけっこう毛色が違います。


カイバ袋や牛乳缶、バケツにおたまといったパーツがランナーに並んでいるのを見るだけでも楽しい。日本人にとっては馴染みのない馬車の車輪のスポークも、「言われてみればなんかこういう形だったな~!」という形状でパーツになっています。

そしてこのキットのエクストリームなところが、ちょろっと付属しているちっちゃい0.3㎜プラ板。これが何かというと、馬に取り付ける手綱や、2頭の馬と馬車とを繋ぐベルトを作るための材料なのです。

西洋の馬車特有の複雑な固定方法で馬とフィールドキッチンはつながっており、これを再現するためにはまず説明書に指示されている寸法でプラ板を切り出す必要が……! 自分も小学生の時にこの工程にトライし、そして見事に失敗しました。

他にも、70年代のプラモらしいエクストリームな工程として「伸ばしランナーで馬用の鞭を作る」というものもあります。こちらは選択式なのですが、付属のフィギュアは腕のパーツを差し替えることで馬に鞭を当てているポーズに組み立てることも可能。その鞭を作るために「ランナーを火で炙って伸ばそう!」という指示があるのです。

伸ばしランナー自体はプラモデルの世界ではメジャーなテクニックではありますが、再販版のフィールドキッチンでは「火で伸ばしていいランナーはどれか」という指示も入っています。PSじゃないとダメなんだ……知らなかった……! ってタミヤはいつもプラモの全てを教えてくれるのです。

これらの工程を乗り越えて、ちゃんとこのキットを完成させられた人が当時どれくらいいたのかわかりませんが、ただフィールドキッチンセットがMMの豊かさを体現するプラモデルなのは間違いありません。「兵隊に食事を食べさせるための装備」という地味なモチーフであっても、精密なモデルを用意して販売し解説するというMMの試みは、戦争という総体がよくわからないものをなんとか模型を通して理解しようとする行為なのではないでしょうか。そしてそれが定期的に再販されて現在の我々が手に入れられるということも、MMの豊かさのひとつと言えるでしょう。時代を感じる点は多々あるキットですが、そういった点自体すら資料的価値になっているような、シリーズを代表する傑作がフィールドキッチンセットなのです。