最新記事やプラモデル情報を毎日お届け!
follow on Xをフォロー!

【レビュー】すべてのライダーのグランマンマーレ/アオシマのスーフォアに抱く特別な気持ち

 3月30日、東京ビッグサイト、モーターサイクルショー、とあるブースのとあるバイクの前。私のアタマの中でガチャーンと音が鳴り、そこから世界は不可逆的に変わってしまった。ほんとうは心のどこかでいつかは手に入れたいと思っていたのに「バイクだけには乗らないっすから」と見て見ぬふりをしてきたことを認めざるを得なかった。「私は、これを、買います」と口に出し、ディーラーに行って手付金を払い、それから私は20ン年ぶりに教習所に通うことになった。順序が逆とか、もうどうでも良かった。

 教習所で「はいどうぞ跨ってください」と言われ、右も左もわからぬ状態でエンストをこきまくったCB400 SUPER FOUR(NC54)は、教習2日目からまさにグランマンマーレの如き包容力で私を風に変えた。自転車でも出せるようなスピード域にあってさえ、ヒュルヒュルと美しく唸るエンジンは心をときめかせた。なるほど、「中免を取得するすべての人類は、スーフォアに惚れるものだ」という周囲の人々の言葉は本当だった。低回転からグイグイと途切れのない出力、スロットルを捻れば鋭く滑らかに加速するフィール。バイクに乗ったことがなくても「乗りやすい」ということが痛いほど分かる。こいつはほんとうに、文句なしに最高のバイクなのだ。

 アオシマから販売されているスーフォアはNC31という形式で、1992年型のちょっと古いモデル。ゴールへと手取り足取り流れるように導いてくれるタミヤのバイク模型に慣れていると、その組みごたえには少々驚かされる。エンジンとフレームを行ったり来たりするトリッキーな順番、パーツがどこに収まるのかを探るような緊張感。「みんなが初めて乗るバイクの模型」としては、けっこう難しい部類に入るのではないだろうか。色を塗らずにただ組み立てるだけでも、ハッキリ言って骨が折れると言っていい内容だ。

 しかしタンクをメタリックブルーで塗ればそこには教習所でイヤというほど見た景色がたちどころに蘇る。なにくそー、と思いながら必死に予約を入れて課題をこなし教習手帳にハンコが押されていくように、このプラモデルもせっかく自分がバイクというメカに向き合うことになったのだから、その記念になんとかして組み上げてやろうと躍起になった。時間をかけて丁寧に作るというよりも、「この模型ができる頃には免許が取得できているといいな」というテンションで、ひとつひとつの工程を味わいながら少しずつ楽しむようにしていた。

 卒検に合格し、試験場で免許に「普自二」の文字を併記してもらい、アタマの中にガチャーンと音を鳴らしたバイクが本当に自分のものになり、初めて公道を走ったテンションのまま、家に帰ってCB400 SUPER FOURのプラモデルを最後まで組み上げた。楽しくて、もどかしくて、思い通りになる歓びも自分の拙さを知る悔しさもすべてを教えてくれるスーフォアは、自分の手にしたバイクとは全く違うテイストながら、たしかに特別なマシンである。そしてこの特別な感情を、バイクの免許を取ったほぼすべてのライダーが共有しているのだと思うと、なんだか不思議な気持ちになる。

 自分が操ったことのあるマシンがプラモデルになっている、というのは幸せなことだ。しかし、「免許を持っている人がほぼ間違いなく乗ったことがあるマシン」というのはおそらく自動車にせよバイクにせよ、このスーフォアをおいてほかにない。こまかいことを言えば形式は違うし仕様も違うが、しかしこの出で立ちに抱く気持ちはいつまでも変わらないだろう。そしていつかバイクに跨るのに慣れてきたころ、気を大きくしている私を見て「おまえ、初心を忘れるんじゃねーぞ」と声をかけてくれるに違いないのだ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

関連記事