
タミヤの1/35ミリタリーミニチュアシリーズがズラッと並んでいる棚を見るとガバーっと血圧が上がるのはなんでしょうねあれ。白いハコ、洒脱なロゴ、強そうな戦車、はるかな尾瀬……。そして子供心に「今日はお金ないし戦車じゃなくてジープとか小さい兵士のセットを買って物欲を満たすべぇ」なんてことをやっているうちにアレヤコレヤと知識をため込んだオトナが爆誕するわけですが、俺は今日の今日までバリケードセットのパッケージの側面(フタ部分)しか観たことがなかったことに気がついた。それはそういうものとしてそこにあり、そうでない状態のことなんて考えたこともなかったというか。お前は常に棚の中でその細い面をじっと俺に見せつけて、「こういう世界もあるんスヨ……」と伝えるだけの存在だと思ってた。

手に取って仰天、なんだそのソリッドすぎる天面デザイン。これフツウなら箱の裏とかに印刷されるべき絵面だろ。日本語はたった2行、あとは英文。寸法がしつこく書き込まれたバリケードの諸相は、あくまで図面ではなくマチエールを感じる精緻なイラスト。プラモデルって、戦車模型って、すげえ。裏返したらどうなっちゃうのこれ。

いやもう全国の小学生男子とかにこのテキストを読ませてたわけでしょタミヤは。買って家に帰って説明書読んだら書いてあるっつうならわかりますけどね、店頭で買おうかどうしようか悩んでるフリして箱を出したり入れたりしてそこにある情報をカピカピのヘチマの如く吸おうとしているキッズにですよ。バリケードの意義、製法、寸法、用法を全部教えてしまうというガチさ。逆に言えばそこまでしないとバリケード買わないよなフツウ。バリケードに命吹き込んじゃってるし、バリケードにストーリー生まれちゃってる。フィギュアも有刺鉄線も入ってないのに、箱を手に取ったらお前はもう工兵。その宿命からは逃げられない。そんでこれ、箱開けたらどうなっちゃうの。

「丸太は戦場では実にたくさん、いろいろなことに使われました」「丸太は戦場では実に数多く、いろいろなことに使われました」と箱裏で2度(大事なことだからね)説明され、飛び出るさまざまな表情をした丸太。まっすぐだったり曲がってたり、細かったり太かったり、節くれだってたりシュッとしてたり。丸太ですよ。これを縛り上げればバリケードになり、これを地面に刺せば杭になる。彼岸島ごっこもドンと来い。

まず3本の丸太を切り出してから三角になるよう置いて、流し込みタイプのタミヤセメントをチョイ。30秒待てばトライアングルの出来上がり。そこにまた3本の丸太を互いに倒れないよう立てかけてセメントをチョイ。接着位置なんて決まってないぜ、すべてはキミの匙加減だ。プラモデルって、なんだっけ!丸太を美しい三角錐になるようにするもしないも、お前次第。戦場は荒野! ハードな緊張とともにバリケードが一丁あがりだが、セットされている丸太は総勢20本。6で割り切れないところがまた痺れる。

鉄道レールを刻んで溶接したタイプのバリケードも作れるのがこのキットのもうひとつの側面。ガンダムとザクが両方作れるセットみたいなもんだ。控えめに入ったケガキ線を目安に三角錐状のパーツを慎重に接着し、互いがXYZ軸で正しく直行するよう調整するというプリミティブな組み立て行為に没頭。

レールは総勢18本入っているからこっちのバリケードは6セット作れるな。ノルマンディーでこれをひたすら並べてていたドイツ軍マジすごい的な感想が漏れてくるし、そもそもバリケードだけがあっても意味はなく、あくまでこれはパッケージに書いてあるとおり「情景用」なのだ。何かと組み合わせてそこに景色を生み出すべきなのだ。でも、べつにいいな。「バリケードを作ったんですよ」って言って、これが机の上にただある、というのも悪くない。

ようようふたつだけ完成したバリケードを置き、そこに1/35の兵士を並べてみるとこれがまた異様なサイズ感だ。細くて頼りないと思っていた丸太は「お前これ運んでくれ」って言われたら絶対に嫌な長さだし、レールに至ってはどう考えても2人3人で持っても腰をイワしそうな重量感を漂わせている。改めて、戦場は荒野。

組んだバリケードのその先にあるのは何か。木の塗装、鉄の塗装にこだわり尽くす。そしてこれがあるべき地面を作り込む。バリケードを起点とした模型表現は無数にあるだろう。突進する戦車、敵の進軍を食い止めんとする機関銃チームがそこに加われば、まごうことなき情景になる。タミヤはそうした世界の広がりを兵士や車両のオマケとせず、あくまでも単体のプラモデルとして、徹底的な解説とともにパッケージし、模型店を訪れた子どもたちの心の扉にねじ込んだ。これこそが商品のデザインであり、戦車模型をオトナのステージに押し上げたマジックだ。「地味すぎるだろ(笑)」「こんなプラモデルもあるのかよ(笑)」と消費するのは簡単だが、このプラモデルは実物のバリケード同様、シンプルだが絶大な威力を発揮したに違いなく、今日も模型店の棚であなたをじっと見つめているのである。