

板と棒ばっかりのプラモデル。これを組み立てるとドイツで使われていた貨車ができます。なんと地味なモチーフをプラモデルにしたんだ……と私も最初は思いました。1/35スケールで完成したときの全長は23cmあまりとだいぶ大きく、貨物列車らしく機関車を仕立てていくつかの貨車を繋いだらとんでもない長さになってしまいます。ところが、いざ手に入れて組み立てると「貨車そのものを作ること自体にもめっちゃ意味あるじゃん」ことがわかってきました。
>ホビコレ AKインタラクティブ 1/35 WW.II ドイツ軍 有蓋貨車 ギュターワーゲン G10型
このプラモデルを発売したのは「AKインタラクティブ」というスペインのメーカーで、長らくプラモデルを仕上げるための塗料や周辺のマテリアルを売っていました。リアルに仕上げるための汚し塗装やジオラマを作るための素材、プラモデルの味付けをぐんとおもしろくする便利グッズを主力商材としてきたのです。

そんな彼らが既存の模型メーカーと少しだけ違うモチーフを選び、他社製品を自社ブランドのパッケージで販売するようになったのはここ数年のこと。戦車模型のメインストリームである1/35スケールで、汚し塗装の似合うモチーフを積極的に選んでいるのが特徴です。この貨車は2018年に中国のSABRE Modelが発売したものをリパッケージした模様で、同社はタンク車や平貨車なども模型化しています。

模型を作ることは、モチーフを知ることでもあります。製品名に「WW2 G10」とありますが、調べてみるとこれは戦後西ドイツで運用されていたときの呼び名であり、戦時中はGの後ろに「カッセル」あるいは「ミュンヘン」の地名を付けて区分されていた……ということがわかってきます。
全部で12万輌以上が生産されたこの有蓋車は、長きにわたってありとあらゆるものを運びました。食料、家畜、弾薬、人間……。平和利用もあれば、おぞましい虐殺のためにも使われました。ある面では「ドイツの物流を支えた立役者」であり、またある面では「史上もっとも悪名高い貨車」でもあると知るに至り、眼の前にあるプラモデルがさまざまな表情を持っていることに気付かされます。

おそらくAKインタラクティブはこうした歴史的な経緯を踏まえたうえで、この有蓋車を「塗装の腕を振るうのに最適なキャンバス」と位置づけているはずです。鉄と木でできた巨大な箱は、素晴らしい木目の表現と精緻なメカニズムを備えています。プラモデルをたくさん作ってきたユーザーならば、塗装の剥がれや錆を塗装で表現することに腕を振るうのに最適なモチーフに見えることでしょう。その証拠にAKインタラクティブは、自社の豊富なツールやマテリアルを使っていかにこれをホンモノらしく塗装できるかを具体的にアピールしています。

私もそれなりに鉄道(とくに貨物列車)が好きなのですが、貨車の細部の設計や構造に興味があるわけではなく、なんとなく用語は見たことがあってもそれがどこを指しているのかまでは知りませんでした。しかし、このプラモデルを組んでいると、自然と貨車の構造に触れることになります。リーフスプリング式のサスペンションが台枠にどう懸架されているのか、車軸を抱く軸箱というのがどんな機能を果たしているのかは、このプラモデルを組んだことでようやく理解できます。

貨車の各所にある繊細な構造はエッチングパーツ(極薄金属板を加工したもの)で再現されます。加工は少々難しいものの、プラスチックパーツの精度も高いので落ち着いて作業すれば確実に組み上がります。決して初心者向けとは言えない歯ごたえがシンプルな見た目の貨車とは似つかわしくなく、それが故に「貨車ってこんなに奥深いモチーフだったのか!」ということがひしひしと伝わってきます。

カッコいいもの、強そうなもの、みんなが知っているものだけがプラモデルになる権利を持っているのではありません。この世には貨車の歴史に詳しく、貨車の構造に精通していて、貨車がどんなふうに使われ、どんなふうに汚れていったのかに最大限の注意を払っている人がいる。そんなあたりまえの(しかし誰もが簡単に想像できるわけではない)事実をこのプラモデルは教えてくれます。誰かにとって当たり前の知識や経験は、他の人にとっても当たり前ではない……。だからこそ、この世のすべてのプラモデルに興味を持って接することが大事なんじゃないかと思うわけです。