グラフィティと貨物列車/海を超えてつながる趣味の話。

 でっかいピザのハコみたいなものが届いた。ロサンゼルスのショップにオーダーを入れてからだいたい20日。甘いような、饐えたような、なんとも言えないアメリカの空気がダンボールの中からムワッと立ち上る。ひさびさに嗅ぐ海の外の国の匂いは、否が応でも旅行への渇望を蘇らせる。

 この小包が届くまで、配送業者のUSPSのトラッキングサイトを何度も眺めた。LAから何故かカナダのバンクーバーに運ばれたあと、もう一度国境を超えてサンフランシスコへ。そしておそらく羽田空港へとフライトした後に、川崎の税関を通って我が家まで。たくさんの人の手を渡り歩きながら、この頼りない紙のハコは長い旅をしたのだ(どうりで目玉が飛び出すような送料を追加で請求されたわけだ)。

 そうまでして手に入れたかったのはTINY GIANTSというショップのオリジナルフォトブック。日本ではあまり考えられないが、海外では貨物列車に用いられる貨車の殆どがグラフィティに覆われている。もちろんそうしたグラフィティを模型に施すカルチャーも盛んで、普段はスプレー缶やら極太のマーカーをリーチいっぱいに伸ばして巨大なグラフィティを描いている人たちが好んでちまちまとした模型の塗装に勤しんでいる。

 ストリートカルチャーのダイナミックな身体性と、模型のこまやかな手技の世界の対応が、この写真集には詰まっている。フルカラー220ページ。余すところなく、模型、模型、模型の写真。ジオラマまで作っちゃって、とことんかっこよくて、とことんうらやましい。鉄道じゃなくたって、こんな撮影用のセットが家にあったら、さぞかし楽しいだろう。

 めくってもめくっても現れる色鮮やかな文字やイラストは、ごく小さな(ほとんどが1/87スケールだろう)模型の表面に器用に描かれたもので、スプレーを使ったグラデーションや何色かを使い分けたフチドリなどが実際の貨車に入ったそれと遜色ない手数で再現されている。もちろんこの写真集のために作品を寄せた人々は「本業」がグラフィティアーティストであるから、そのデザインもホンモノ感がすごい。

 そして、最後のページで私はノックアウトされた。

 ウデにガッツリとタトゥーの入ったキャップのアニキと、ジェイソン・ステイサムみたいなごっついヒゲのアニキがめちゃくちゃ真面目な顔で貨車をジオラマに乗せ、その位置を調整しているではないか。TINY GIANTSのスタッフがこんなふうに写真を撮って、世界中の「グラフィティと鉄道模型が両方好き」という奇特な人間のために写真集を作って、シェアしている。

 発注した後に送った「ごめん、入力ミスしたから宛先変更して!」というこちらの丁寧なメールにも「OK, no problem! from iPhone」とだけ返ってきて、遅れて「あとなんか送料足りないわ。もう40$ちょうだい」とカジュアルな返信があったのにも笑った。けど、いまこうして手元に写真集があると、このアニキたちと同好の士となったこと、ちょっと会話があったことがなんだか誇らしいような、嬉しいような気持ちになる。

 まだまだ世界は自由に旅行できる状態にならなそう。でも、好きなことがあって、手を動かしている人は世界中にいる。彼らと海を超えてやりとりをすると、ほんのひとときの幸せな時間が訪れる。海外通販は10年前に比べてうんと簡単になったし、とんでもない事故も減ったように思う。海外のネットワークを見ていて気になるものがあったら、軽率にコミュニケーションをとってみよう。たまにヤバいこともあるけど、すごくいい出会いもある。

>Tiny Giants | Urban Graffiti Railroad Inspired Artwork

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からぱた

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』http://wivern.exblog.jp の中の人。