

夜間に敵艦を奇襲しようと考えた旧日本海軍は、敵の動向を探るため夜偵という特別なカテゴリで偵察機を開発する。夜通し敵艦に張り付き低速でも安定して飛行する能力が求められ開発したが、想定した戦場は現実にならず活躍の場は少なかった。製造数はわずか16機。後継機も開発されないレアで不遇な飛行機である。 飛行艇型の本機には座席が三つ、パイロットの前方の空間に二人が押し込まれているような配置に「乗り心地はどうですか?」と訊ねてみたくなる。パイロット以外の役割は最前席の偵察手と無線でやりとりをする通信手だろうか。
金属製の骨組みに布を張って構成された主翼は布のたるみがよく表現されている。布越しに行き交う骨組みはまるで二の腕から浮き出た血管のようにも見える。

主翼を上下二段に重ねた複葉機は低速で飛ぶことに向いている。そして複葉機のプラモデルには二枚の主翼を組み立てるというハードルが待ち構えている。下段の主翼に複数の支柱を生やし、慎重に上段の主翼を接着していく。片方の手で機体と翼を保持し、反対の手で接着剤を流し込むのだが、力み過ぎた手は支柱をなぎ倒し、バラバラになったパーツが目の前に散らばっていく。
あぁせめてもう一本腕が使えたなら……と考え、重力をコントロールできないことに苛立ち、今日はもう終わりにしようと箱の中に戻す。腕を増やすことはできないが、救いの手はメーカーから差し伸べられている。このキットには自分の代わりに主翼を支えてくれる治具が付属しているのだ。ランナー左右に付いているFみたいな形の部品である。

せっかくだから治具をオキサイドレッド(サビ止め色)に塗った。実機の製造に同様の治具が使われたのかは分からない。木組みのフレームだったかもしれないし、クレーンで吊って組み立てたのかもしれないが雰囲気づくりも大切だ。A4サイズに満たない机の工作スペースが工場に見えてくるのだから余計な手間とは感じない。

治具があるとはいえ、手強い工程であることには変わりない。コツと言えそうなものは無く、落ち着いて力加減を間違えないようにパーツを扱うしかない。そして組み立てが済んだら気づくはずだ。あんなに頼りなかった支柱が支え合うことで、上下の翼がガッチリとした構造物になったことに。

夜の闇に溶け込むように全身が真っ黒に塗装され、その様子からカラスとあだ名が付けられた。木製のプロペラだけは木目調に塗り分けておくとよいだろう。布、金属、木、そしてガラス。異種材料混合の飛行艇がオールプラスチックのミニチュアになって机の上から飛び立っていく。工場だった机の上が今度は洋上に早変わりだ。