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伝説的造形のデジタルリマスターとプラモデル化がもたらすもの/海洋堂のARTPLA エヴァ初号機

 海洋堂の傑作ガレージキット、松村しのぶ版のエヴァンゲリオン初号機がプラモデルで手に入るってめっちゃスゴいことなんですよね。松村しのぶと言えば恐竜とか動物を手掛けたら右に出るものはおりませんという原型師で、2000年前後に社会現象にまでなった『チョコエッグ』は松村しのぶの動物チョイスと原型がなければ成立しなかったし、そもそも「中国でハイクオリティな彩色済みの完成品フィギュアを大量に生産する」という方法論も存在し得なかった。つまるところ現代の我々が食玩や美少女フィギュアをはじめとする高品質なホビー商材で遊べているのはほかならぬ松村しのぶのおかげといっても過言ではないのですわかりますか(超早口)。

 その松村しのぶが『新世紀エヴァンゲリオン』放送当時に作り上げた造形が上の写真で示したエヴァンゲリオン初号機です。「さすがにこれは超傑作すぎるので私も所有しているし組み立てたし筆一本で全部塗りました」という信仰告白でございます。模型界隈では「レジン」の呼び名で通っている無発泡ウレタンで複製され、ガレージキットという商品形態で頒布されました(そのあとも同じ原型をひな形にさまざまな仕様の商品が売られています)。これがデジタルの力でスキャンされてリマスターされてプラスチックモデルになるとどうなるか。答えはハコを開けるとわかるんですが、パーツがめっちゃバラバラになります。

 ガレージキットって柔らかい素材(シリコーン)で作った型に液体状のウレタンを流し込んで硬化させてから取り出すので、とんでもなくデカい塊でもとんでもなく複雑な造形でも、型さえ壊れなければ複製できちゃいます。たしか松村版初号機は胴体がイッパツ抜きでゴローン、両腕両足がそれぞれワンパーツでゴローン、あとは細かいパーツ(頭部とか左手に持ってるサキエルの腕とか)がちまちまっと入っているくらいで、じつは組み立てが超簡単&スピーディ。あとは塗装のセンスで勝負じゃ!というキットでした。

 しかし硬い金属でできた金型で複製するプラスチックモデルとなると、全体の彫刻が複雑すぎる上に金型からパーツがちゃんと外れる形状じゃないと成形できません。するとランナーが5枚、パーツ数はおよそ200点くらいに膨れ上がります。しかもオリジナルが全高350mmだったのに対してこのプラスチックキットは全高230mmと2/3程度の大きさに凝縮されています。

▲手に持っているのがプラモデル版、色が塗ってあるのがガレージキット版
▲サイズ差、これくらいある

 組み立てると確かにあの傑作造形がみるみる蘇るのですが、とにかくパーツが細かい&多い!ここまで発売されてきたARTPLAの製品が持っていた「ドカンバコンと形が組み上がっていくダイナミズム」は鳴りを潜め、とにかくひとつひとつの面を実直に貼り合わせていくという体験が待っています(これは決して「難しい」とかではなく、各工程は極めて単純なのですが物量に圧倒されます)。

 さらにプラスチックの感触がやたら硬質で、パーツを切断するときにパキーンという手応えがあるのに加え、切断した跡がだいぶ頑固に出っ張るので丁寧に処理しないとうまく組み上がらないのが短所といえば短所だと思いました。

 もちろんプラスチックモデルならではのサービスも見て取れます。例えば胸部は装甲を取り付けた状態とハリのある繊維と微細な血管の走る筋肉が露出した状態を選べるとか、エヴァとサキエルそれぞれのコアを本体と同じ色かクリアーパーツかで選べるといったボーナスパーツはプラスチックモデル化にあたって考えられた仕様。

 それから、ただカタチを再現するためにむやみやたらとパーツ分割をしているわけではなく、ほぼ設定の色分けラインに分割ラインが来るようになっているため、「各パーツを単色で塗ってから組み上げる」というプラモデル的な仕上げかたも可能です(個人的には塗る前に胴体と四肢と台座と頭部くらいに組み上げてからそれぞれをガレージキット的に筆塗りでモリモリ彩色して最後に合体するという、「ガレージキットの疑似体験」をしてほしいなという思いもあり……)。

 「オリジナルアレンジがガッツリ入ったエヴァンゲリオンの造形」としても、「アナログ時代の傑作ガレージキットをデジタルリマスターした彫刻」としても大きな意義のあるARTPLAの初号機。ガレージキットではペライチのザラ紙だった組み立て説明書も、今回は4ページ(解説や塗装指示も含むと8ページ!)に及びます。ほとんど無駄のないギッチギチのレイアウト(by古賀 学)は、これだけスゴい造形が「ガレージキット」という特別な手法で世に広まっていたこと、「こうまでしないとプラスチックモデルにできない造形」をみんなが手に取っていた時代が確かにあったことを逆説的に示しています。

 これを組めば「どんな超絶造形でもプラスチックモデルに置き換えられるテクノロジーが育ったのだなぁ」という感慨が湧き上がってくるはずです。みなさんも、手にとって眺め、ぜひ筆を取って下さい。導かれるように塗れば、恐るべき造形作品が眼の前に出現するはずです。そんじゃまた。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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