

プラノサウルスのラインナップ第二波がバンダイスピリッツから高らかに発表され、タミヤが新旧恐竜シリーズの再生産を大々的にアナウンス。さらにジュラシック・パーク版ティラノサウルスまで発売された現在、恐竜プラモを取り巻く状況は最高潮に達しようとしているようです。そんな中、満を持して海洋堂からティラノサウルスのプラモデルが発売されました。
海洋堂といえば、松村しのぶさんをはじめとする強力な原型師たちを推し立て、恐竜のガレージキットで世界を席巻した過去があります。本キットのお座りティラノサウルスはそんな時代に松村しのぶさんによって制作された粘土模型をデジタル化・プラモデル化したもののように見えますが、皮膚の表現や頭部のシルエットをはじめ徹底的に手が加えられており、別物と言って差し支えないものとなっています。それでいてゆったりした佇まいは30年近く前の造形からまったく変わっておらず、海洋堂の恐竜造形のなんたるかを今に伝えているようです。

箱を開けると馬鹿でかいティラノサウルスの胴体が視界に飛び込んできます。この感覚は、タミヤの恐竜世界シリーズのティラノサウルスの時と同じです。デカいパーツはそれだけでむやみに興奮するものです。 ティラノサウルスは肉食恐竜の中では最大級の体格の持ち主ということで、1/35とはいえ胴体だけでも相当なサイズ感。リラックスし、体重を完全に地面に預けていることが伝わってくる造形はさすがのひとことに尽きます。

パーツの合いも上々で、たっぷりの接着剤(通常タイプと流し込みタイプの2種類があればなおよし)さえ用意しておけば何も恐れることはありません。レジンキットやソフビキットではパーツの変形があったりして接地面を揃えるのが大変ですが、本キットはなんの調整も必要ないのです。パーツを貼り合わせていくだけで、地面にべったりと座り込んだティラノサウルスのおとなが姿を現します。手の上に乗せられるサイズではありますが、肉厚のパーツに重力を感じさせる造形も相まって、かなりの重量が伝わってきます。

令和の恐竜プラモデルということで、こどものティラノサウルスには羽毛が生えています。とはいえ、20年前には羽毛の生えた恐竜フィギュアを量産してスーパーのお菓子売り場に並べていたのが海洋堂です。海洋堂のフィギュアが世界で一番ラディカルな恐竜復元だった時代がかつてありましたが、それから30年が過ぎ、世界最高峰の恐竜造形としての落ち着きが感じられるプラモデルとなっています

タミヤの恐竜世界シリーズには双眼鏡を携えた髭のおじさん(伝・ヒサクニヒコ先生=キットの監修/解説担当)がおまけとして付属していましたが、本キットでは老若男女5人の飼育員・研究員が大きな要素をなしています。鉤棒を持った飼育員のおじさんは松村しのぶさんらしき風体で、だとすると他の人々も実在の誰かしらなのかもしれません。モチーフになった人物についてはさておき、会話はおろか互いの関係性さえ伝わってくるような造形です。 飼育員・研究員で突然パーツ分割が細かくなってうろたえますが、丁寧に切り取ってさえやれば大丈夫。汗でメガネのズレたにいちゃんが必死で運んでいるバケツの中身が本キット最難関の組み立て工程ですが、別にうまく接着できなくても何の問題もありません。バケツの中に収まっていればいいのです。

今日恐竜の研究といえば、汗や泥や砂にまみれながら化石を探し歩き、必死で論文をかき集めて博物館を渡り歩き、あるいは片っ端からエミューの足を解剖したり、数理モデルと格闘したり、だいたいそんな感じです。本キットは「突如現れた恐竜の観測をする研究員と、食事のお世話をする飼育員」(説明書より引用)のセットということで、我々の世界とはずいぶん違った様相ですが、そこに含まれているのはやはり恐竜の研究をしている人々に違いありません。
かつて学研から出版されていた『恐竜学最前線』という雑誌の第1号の表紙を飾ったのは、松村しのぶさんがアメリカ自然史博物館のために制作した恐竜の模型でした。この雑誌から巣立っていった人々は30年後の今日でも業界に居残っており、たびたび紙面に登場していた海洋堂も、今またプラモデルで恐竜模型の最前線に戻ってきたことになります。
生きたティラノサウルスを飼育し、観察する。古生物学者の見果てぬ夢を立体化したこのプラモデルの人々は、恐竜学の最前線を戦っている瞬間の姿で射出成形されています。荒木一成さんの登場以来、40年以上にわたって名だたる恐竜模型を生み出し続けてきた海洋堂も、そしてその最新恐竜プラモデルを組んでいる我々も、同じ場所に並び立っていると言えるでしょう。 今こそキットを組み立て、高らかに叫ぶ時です。みなさまご唱和ください。 「俺が、俺たちが恐竜学最前線だ!」