ハセガワの1/48震電のめちゃめちゃいいところをひとつ挙げるなら、翼の角度がどうやってもビシッと決まることだ。機首にある小さな翼は機銃の突き出す外板で左右が繋がっているから、胴体の切り欠かれたところにこのパーツを乗っけるだけでまっすぐ水平にセットされる。けっこうトリッキーなパーツ分割だから合わせ目がガコガコするのでは?という心配はいらない。きっちりツライチに合う。
主翼の下面も一体だ。上面は左右に分かれているけど、胴体との間にスキマはできない。説明書の言うとおりに貼ればちゃんと震電の形になる。主翼後縁にあるふたつのU字型の細長い空間にはそれぞれ垂直尾翼がくっつくのだけど、これもスポッとハマってグラグラしない。飛行機がカッコよく組み上がるかどうかは翼の角度が設計通りになっているかどうかにかかっているけど、このプラモデルは数ある飛行機模型の中でもトップクラスに組みやすい。
組み上がったらまずは風防をマスキングしてしまおう。10枚の窓の枠を自分で切り出すのはたいへんだけど、いまは検索すると専用のカット済みマスキングシートが安価に手に入る。飛行機模型を作る上でどんな投資よりも効果的だと思うし、なんと震電の場合は3セットも入っているから、あと2機作れる。友達と分けたっていいだろう。
一層目は説明書に書いてあるカラーを筆で大雑把に塗りつける。全部キレイに塗ろうと思ったら筆だとかなり時間がかかる。これは下地の味付けだと割り切ってムラムラに、胴体は縦方向、翼は前後方向に塗る。全体が緑色になってくると、「おお、震電を作っているな!」という感覚がどんどん増してくる。楽しい!
プラスチックがグレーだから、下面のグレーは筆で全部塗ることにした。多少厚塗りになったような気がしても、乾けばちゃんとパネルラインが浮き出してくる。スプレーやエアブラシで塗ったようにツルンときれいな塗装にしたければ、スプレーやエアブラシで塗ったらいいし、飛行機の裏側をじーっと見る人はあまりいないから筆で塗っても誰も怒ったりしない。なんせ、これはあなたのプラモデルだ。あなたの好きな方法で作ろう。
デカールを貼って、ズドン。できました。緑とグレーの境界はマスキングとかエアブラシとかいろいろ考えたけど、結局筆で緑と灰色を交互にグリグリとなすりつけてグラデーションっぽく。ここに筆塗りの痕跡が残っていると、「筆で塗ったぜ〜!」という感じが出ていいでしょ。これは最近筆塗りの本を読んだから、調味料として取り入れることにしたのだ。
パーツのヤスリがけとか合わせ目消しとかディテールアップとか凸モールドをスジ彫りに変更とか、そういう加工はいっさいなし。プラモデルの説明書に書いてあるようにパーツを貼って、塗装して、デカールを貼っただけ。どんな言い訳もいらない。何よりも「完成している!」ということの迫力がすべてをカバーしてくれる、と改めて思う。
キットが何年に作られたものだろうが、凸モールドだろうが、コクピットが少々簡素だろうが、それらは「初心者」とか「上級者」のためのものだと決める要素じゃない。作った人が「もっとできる」と思えばまたトライすればいいし、「これで精一杯だぜ」と思ったら至高の完成品だ。ハセガワの1/48震電は、プラモデルの楽しさをごくシンプルに味わいながら、唯一無二のスタイルを手に入れられるグッドチョイスだ。みなさんも、ぜひ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。