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エレールにエールを/フランス生まれのトラクター、フランス生まれのプラモデル。

 フランスを代表するプラモデルメーカー、エレールがドイツのGlow2Bという会社に買収されたのは2019年のこと。それまでは長きにわたる業績不振や経営母体の変化で流通は不安定、開発時期によって製品の出来にもブレがあり、金型のメンテナンスも行き届いていない……という印象があった。2019年からはエレールが持っているすべての金型を徹底的にメンテナンスし、パッケージデザインも一新。日本ではプラッツが輸入代理店となり、ついに模型店に「新生エレール」のキットたちが棚に並ぶ日がやってきた。

ホビコレ エレール 1/24 ファーガソン プチ グリ トラクター

 エレールのファーガソン トラクター「プチ グリ」は1/24スケールで、初版は2015年と比較的新しいモデルだ。パッケージを開けるととても繊細で上品なパーツが目に飛び込んでくる。適度な柔らかさを持つプラスチックはとても切りやすく、ヤスリやナイフもすべらかに入って心地よい。あまりに現代的なその佇まいから、組み心地もきっと快適そのものだろう、と思っていたのだけど……。

 説明書の表記どおりに組もうとすると、なかなかに難しい。パーツの位置決めがハッキリしないところもあれば、そもそも図示されたとおりには組めないところも散見される。簡単に言えば、明らかな設計ミス、もしくは説明書の誤記だ。どれもが致命的(=修正不可能な不良)というわけではなく、「本来こうなっているべきなんだろうな」というカタチに自分でパーツを削ったり、思い切ってカットすればなんとか収まってくれるのだが、当然ながら「初めてのプラモデルにもおすすめできます!」とはなかなか言えないのが実情だ。

 とはいえ、組み立て途中のルックはとても緻密で「世界中のすべてのトラクターの始祖」と言ってもいいファーガソンがじわりじわりと姿を見せてくれるのは素直に嬉しい。プラモデルでの失敗やリカバーを何度も経験してきた人ならば「ちょっと難しい」くらいのレベルであっても、もうほんの少しだけパーツの位置や角度を決めるハメ合わせをハッキリさせたり、細すぎるパーツを少々デフォルメして剛性のある設計とすれば誰もが安心してこの体験ができると思うと、ややもったいない内容ではある(そもそもプラモデルにおいて、設計ミスや説明書のミスと「難度」を結びつけるべきではないし、まずは組めること、間違っていないことがあらゆる製品の大前提にあるべきだ)。

 ルックは抜群だが、設計と説明書に難がある。こういうプラモデルをユーザーのスキルでねじ伏せて「これもプラモデルの醍醐味」なんて片付けてしまうと、この素晴らしい造形は選ばれた人にしか味わえないことになってしまう。幸い、Glow2B体制となったエレールは新規開発や過去の資産のメンテナンスにも意欲的だ。僕らがプラモデルを組んで感じたこと、指摘すべきことがあったらメーカーや代理店にドシドシ伝えよう。フランスで作られることにこそ意味のある素晴らしいモチーフが、この世にはまだまだたくさんあるはずだし、彼らが僕らの声に耳を傾けてくれたなら、もっと多くの人がエレールのプラモデルを選び、組んで楽しむ時代がやってくるはずだ。

ホビコレ エレール 1/24 ファーガソン プチ グリ トラクター

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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