5月に開催された静岡ホビーショー、ハセガワブースで思わず叫んだ。いままで頑なに「塗装が前提なんだから、実車の色とプラスチックの色は関係ないでしょ?」とでも言わんばかりのストイックな構成だったハセガワのバイク模型。新作のホンダVT250Fは5色のプラスチックでプラモデル化されると書いてある。オレは世代的にこのVT250Fというバイクとなんの接点もないのだけど、一気に興味が湧いてきた。
これまでグレーと黒(に、カウルの1色)が標準で、さらに「実車では黒いところがグレーのパーツ」「実車では銀のところが黒いパーツ」みたいなことも散見されたハセガワのバイク模型。塗装すればもちろんプラスチックの色に意味はないのだけれど、だったらいっそのこと全部グレーでも問題ないはずだ。素材に色が付けられるプラスチックの特性を活かすなら、塗装しない日にも雰囲気を味わえる配置のほうがバリューは高いだろし、塗装するときにも「だいたいそこが何色か」が直感的にわかったほうが楽しい。
「プラモデルは最初から完璧に塗らなくてもいいように色分けしてあるのが偉い」と言うなら、ガンプラが最強ということで話は終わりになってしまう。でも世の中のものごとにはグラデーションがあり、僕らのモチベーションやスキルにだってムラがある。よく「とことんやる人/パチ組みで終わらせる人」を分けて語られるプラモデルだけど、「全部できる/できない/全部やりたい/ちょっとしか手を入れたくない」は同居していいし、その日の気分で変わっていいはずだ。
タミヤのバイク模型がそうであるように、ハセガワのVT250Fも「そのままでもかなりそれっぽいし、さらに手を入れたらもっとよくなる道筋が見える」というのがすごくいい。特徴的なホイールのパーツ分割はマスキングと塗装前提の設計思想ならまず出てこなかっただろうし、エンジンとフレームの佇まいもプラスチックのままでそれなりに実感がある。それでも実車でシルバーのところをあくまで灰色のままにしてあるのがハセガワらしく、ちょっと遠いところから「頑張って塗ってみようぜ」と声をかけてくれるようにも感じられる。
プラスチックパーツをただ切って貼るだけ。ハセガワ流の小さなパーツがたくさんある「実車を組んでいるような緻密な再現」は少々組みごたえがあるが、あえての「刺し身」で組んでこのルックだ。なによりも、1パーツだけ用意されたブルーのパーツがこのバイクのシートを鮮やかに彩ってくれる。ここからさらにデカールを貼ったら、プラモデルを知らない人だって「これ、キミが作ったの?かっこいいじゃん」と驚いてくれるはずだ。色が付いているアドバンテージというのはそれくらい大きいし、「さらに手を入れる」というモチベーションにも繋がる。ハセガワのバイク模型の歴史がちょっと動いた日、みんなもぜひ体感してほしい。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。