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ガゼルの皮を被った怪物/アオシマの大らかなプラモデルで知る「スーパーシルエット」の熱狂

 カーモデルは、「毎日その辺の道路で見かける自動車」というなんとなく知ったようなメカにも異様な幅と奥行があることを教えてくれる。この冗談みたいにカクカクしたシルエットのなかに、よーく見るとフツウのクルマのボディが入っているプラモデルはどうだ。ハコにはガゼールと書いてある。ガゼールとはなにか調べると、ちょっとハイグレードなシルビアと考えていいようだ。まず車種に対する知識がひとつ増えた。

 シャーシは市販車のプレスされたフロアとは違って味も素っ気もない金属板のようで、ところどころにパイプのようなものがチラホラ見える。このプラモデルのモチーフとなった’81年モデルは「量産車用モノコックを大幅に改造したマシン」だったのだが、翌年からは全面的に手作りのパイプフレームになり、もはやフォーミュラカーのような”レース専用シャーシ”に市販車っぽいシルエットのガワを被せたマシンがサーキットをカッ飛ばしていたのだという。これが世にいう「シルエットフォーミュラ/もしくはスーパーシルエット」である(このへんで、本キットが’82年のシルビアにガゼールのデカールを入れた、「なんちゃってガゼール」だということがわかってきた……。もしホンモノの「ガゼール スーパーシルエット」を再現仕様となると各部に大幅な改造が必要になるが、そこはそれ)。

 ホンモノが市販車仕様のシルビアやガゼールをプラモデルのように改造してレーサーに仕立てていたのとは違って、このキットは最初からシルエットフォーミュラとして形作られている。余計なものはすべて取り払われたキャビンの横には、かつてのキッズを熱狂させたモーター走行用の電池ボックスが鎮座している。なるほど、こんな凶暴なカタチのマシンがスイッチオンでギューッと走ったらさぞかし楽しいだろう。大丈夫。プラモデルは走らなくてもだいぶ楽しい。

 接着剤が乾くのが待ちきれなかった40年前のキッズとは違い、現代を生きる我々は凄まじい性能の接着剤を何種も使い分けて剛速でプラモデルを組み立てられる。きっちり塗って最新のプラモデルに見劣りしないように作ることもできるだろうが、このキットのありのままの姿を知りたくて白いパーツは白いまま、黒いパーツは黒いままジャンジャンカタチにしていく。荒々しいスピード感が、プラモデルのキャラクターとマッチする。

 かくて現れるのはガゼールの皮を被った強烈なレーサー。ストレートの伸びでもドリフトのスキール音でもなく、フルブレーキでコーナーに突っ込みながらエキゾーストから盛大にアフターファイアーを吹き出すのに当時の観衆は熱狂したのだという。若者がシルエットフォーミュラに熱狂した’80年代初頭は、同時に”プラモデルの夏”でもあった。当時のガチャガチャした熱狂は、このキットの成り立ちからも匂い立ってくるようだ。

 40年前、レースシーンに花開いた夢がプラモデルとなって、いまも普通に店頭で買える。風洞実験じゃなく、走って確かめ、そのたびに盛り削りして形作られた恐竜のようなエアロパーツが僕らの手中に収まる。シルビアとガゼールの違いを云々するのもいいが、お互いをごっちゃにしても「カッコいいのが正義」というメーカーのおおらかな気持ちをそのまま受け取って、ボディを塗装しスポンサーデカールを貼ろう。カーモデルが教えてくれる、まるで恐竜時代のようなお話が始まる。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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