中目黒でランチしながら「このままプラモデルを買いに行きたいね」という話になり、タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店に赴いた。つい先日ひとりで行ったばかりだったし、そのときは一応すべての棚を眺めてから必要な工具だけを買って帰ったから、今日また行って欲しいものがあるかどうかわからないな、と少しだけ思っていた。日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅というまだ降りたことのない駅から歩けば、中目黒から新橋もそう遠くはない。
フミテシと行くタミヤ新橋はいつも抱腹絶倒のおもしろさである。すべてのアイテムをひとつひとつ指差しながら、これにはこんなフィギュアが入っているとか、これはまだ組んだことがないとか、このキットはここがすごいんだという話を聞かされる。同時に私はフミテシに対して、同じように彼のまだ組んだことのないキットについてああだこうだと語る。
何度となく来たショップ。カタログだって数え切れないほど読み倒してきたし、ふたりとも模型専門誌出身だしいまもこうしてプラモデルが好きでウェブサイトをやっているくらいだから、ある程度タミヤの製品についての知識はあるようで……ぜんぜんないのである。
知ったつもりで知らないのがプラモデル。結局箱を開けてそこに何色のプラスチックが入っているのか、かっこいいアニキのフィギュアが入っているのか、はたまたこの戦車はどれくらいパーツがこまかいのか、あるいは一瞬で完成しそうなオーラなのか……お互いがお互いに教えて「えー、そうだったの!」と驚いている始末だ。
それなら……と棚からプラモデルを抜いて脇に抱え、また次のコーナーへ。いつしか工具やら塗料やらも欲しくなって、両手は節操なくプラモデルとそれにまとわるエトセトラで塞がる。その姿をお互い見て、また爆笑する。
プラモデルが好きで、毎日毎日触れていても、結局作ったことのないものは自分で作ることでしか、そのプラモを知ったということにはならないのだろう。「あの人が作っていたからいいや」とか、「あの人がこう言っていたから多分そうなんだろう」というのはホントかどうかわからないし、忘れる。
幸い、インターネットを検索すれば「作り方」とか「こんなにかっこよく完成するよ」という情報はけっこうな確率で見つかる。でも、箱を開けてワッと感心するあの瞬間、なにに心が動いたのか、なんでそれを買うことにしたのか……みたいな話はなかなか読めない。
有名なキットだって、実際に開けて見てみるまで知らないことはたくさんある。へえ、動物セットは白いプラスチックなんだとか、子ブタがかわいい(3匹なんだ!)とか。じゃあ買おう。Ⅳ号駆逐戦車だって新キットが置いてあるけど、比べるために古い方も組んじゃおう。
相方がドサッと会計をしているのを見ていたら、なんだかすごく嬉しくなった。ひとりで模型店に行くのとふたりで模型店に行くのはだいぶ違う。自分が組んだことのあるキットについて話したら、それが相手にとってオススメになっていた。相手が熱っぽく語るプラモの良さに当てられて、自分の知識だけでは判断材料に欠けていたプラモデルを買うことになった……。この関係を超デッカくしたのがnippperである。
いくら古いプラモデルでも、いくら新しいプラモデルでも、まだ組んだことのない誰かにとっては未知の新作だ。いまこれを読んでいるみなさんも、自分のために自分の感動をここに書き記してもらいたい。石の上にも……というよりは、桃や栗がじっくりと育つように、nippperは開設から3年経って「プラモデルを語るときにあたりまえに使えるプラットフォーム」という空気感をまとい始めていると思う。誰かにオススメしようなんて考えなくていい。「なんてすごいんだ!」「オレはコレが猛烈に素敵だと思う!」と書いて、それが誰かに届けば、その楽しさや感動は2倍にも10倍にもなるはずだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。
1983年生まれ。模型雑誌編集や営業を経て、様々な世界とリンクする模型の楽しみ方にのめり込む。プラモと日常を結びつけるアプローチで模型のある生活を提案する。ブログ/フミテシログ(http://sidelovenext.jp/)