それはこいつ。金色のBOYじゃなくて、平べったい巨大な車両です。アポロ計画から最新のアルテミス計画まで、アメリカのロケットは組み立て棟から発射台まで、この「クローラー・トランスポーター」という車両で運ばれてきました。ロケットは垂直に飛べるけど、地上でえっちらおっちら歩くことができない。アメリカの人々は、ロケットを立てた状態で組み立てて、このクソデカ車両の上に載せてそ~っと運ぶわけです。一方ロシアはロケットを横倒しにして鉄道で運び、発射台のところで垂直に立ち上げます。どっちが頭がいいか。そんなことはいいんです。
「キャタピラ」というのはキャタピラー社の登録商標なので、日本語では「履帯」とか「無限軌道」、英語では「トラック」とか「クローラー」というのが一般名詞です。ワンパーツで戦車の片側みたいなのがすでに完成しちゃてますが、ひとつのユニットが全長10m以上とものすごく巨大です。一枚の履板(履帯を構成する板)が900kgとかあります。1/400スケールってすごいよね。人間が4mmくらいだと考えるとすごいでしょ。
実物をごらんくださいまし。むやみにデカい。クローラートランスポーターの上にプラットフォームという巨大な箱(これが「移動式発射台」なのだ)を載せて、その上にスペースシャトルが乗っかっています。発射台だとみなさんが思っているもの(奥に見える塔)はロケットや宇宙船に燃料、圧縮空気、電力、水などを供給するための補助装置にすぎません。本当の「台」は、こうして運ばれてくるのだな〜。ほら、ただの巨大な車両がだんだん「それが大事なんじゃん!」というふうに思えてきたでしょ。
クローラートランスポーターの上の板を裏返したところ。なんかものすごい鉄でできた巨大な物体なのがなんとなく伝わってきます。左右に斜めに生えた板は台の上に上がるための階段。こういうむやみやたらにでかい物体は人間がそれを使うためのディテールを見るとサイズが掴みやすくなりますね。
いろいろ組み付けて完成したのを裏返す。昆虫とかザリガニも裏返して眺めるとメカニズムが味わえて良い。とんでもなく長い排気管がビョーンと伸びているところとか、ぶっきらぼうで良い。1965年に当時世界最大の車両として2機が製造され、現在も改修とメンテナンスを施されてロケットを運んでいます。世界の宇宙開発計画の半分くらいを見てきたまさに母なる存在。ああ尊い。コレが組めるの嬉しいね。
ちなみに行きと帰りで方向転換できるわけじゃないので帰りはバック。だから運転席は前後(左右?)点対称な位置にあります。ほら、組みたくなってきたでしょ。当然キットにはこの上に乗っかる台とかスペースシャトルとかも入ってるんだけどさ。この車両こそが本体だと思って眺めてみると、すごく盛り上がる。スペースシャトルのおまけじゃなくて、巨大な車両に「荷物」が付いてくる……と考えたら、1/400のいろんなものを載せた図が思い浮かぶよね。そんじゃ、続きはまた。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。