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『祝福』/バンダイスピリッツの最新恐竜プラモシリーズ、「プラノサウルス」の話をしよう。

▲世の中には色々な仕事があります。恐竜の骨を絵に描いて博物館や大学に納入し、後ろの本を書いて細々と暮らす人もいます。私です。

 恐竜(や、そういう系)のプラモデルといえば、往年のタミヤ、最近だとフジミやフタバスズキリュウのキット化で話題を呼んだウェーブなど、実在のものをモチーフとしたキットを得意とするメーカーのものが思い浮かびます。どっこい、ガンダムのプラモデルを主力とするバンダイスピリッツが2021年に突如繰り出してきたのが、恐竜の「骨格」でした。プラモデルでありながら石油系原材料の使用量を削減した「LIMEX」という素材のティラノサウルスとトリケラトプスの骨格、そして1/32の大スケール「Imaginary Skeleton」ブランドです。イマジナリーです。イマジナリーな恐竜の骨格です。俺は本物の恐竜の骨格を絵に描いて暮らしているが……?

 そして2023年1月21日からリリースが始まったのが、この「プラノサウルス」というシリーズです。バンダイスピリッツが恐竜プラモデルの本格的な新シリーズを立ち上げたのです。発表済みのラインナップにはモササウルス(6月発売予定)までいます。いきなり恐竜ではない爬虫類をぶっこんでくるこの感じは恐竜戦隊ジュウレンジャーであり、恐竜図鑑のそれです。ここで筆者はバンダイなスピリッツに屈したのでした。

プラノサウルス ティラノサウルス 色分け済みプラモデル

▲ここ1年くらいプラモデルを作っていなかった筆者でも大丈夫。組み立てに工具はいっさい必要ありません。爪で押し込むようにすると安心して切り離せる気がします。

 というわけで発売日に買ってきました。ティラノサウルスとトリケラトプスの同時リリースということで、ガンダムとシャアザクが同時発売されたようなものです。どちらも1500円ほどと、価格も箱のサイズも現行HGUCのザクやジム系のそれです。ちなみにヨドバシAkibaだと、ティラノサウルスの方が売れているように見えました。

プラノサウルス トリケラトプス 色分け済みプラモデル

 デフォルメの利いたCGモデルに「リアル」風なテクスチャーの貼られたパッケージアートと「対象年齢6歳以上」の文字は、この商品の立ち位置を雄弁に語っています。監修者の名前がでかでかと書かれているのも今どきの恐竜プラモデル。プラノサウルスの監修者である富田京一さんは、様々な恐竜関係のイベントの監修や、TCA東京ECO動物海洋専門学校の恐竜・自然史博物専攻(!)の講師も務めておられます。

▲金型屋さんが苦しんだことは容易に想像がつきます

 箱を開けるとアースカラーのランナーと、見慣れない縦長判型の説明書が目を引きます。この判型は博物館の入口に置いてある入館案内のそれです。ぜひ実物で確認してください。ちょろさに定評のある筆者はここで陥落しました。

▲射出成型でこういうディテールは、それだけでなんだか嬉しくなってきます。博物館にある「本物」(実際の化石やその複製品)と比較すると、プラノサウルスのデフォルメの方向性が見えてきます。

 骨のネイチャ~な造形と可動部のインダストリアルな感じの対比が目立ちます。工具なしでパーツを切り離せるタッチゲート式&接着剤のいらないスナップフィット式なので、生まれて初めてプラモデルを買ってもらったちびっこでも安心安全です。外装も含め、パーツ同士の嵌合もかなり快適。安心して遊べるのは子どもも大人も一緒なのです。

 スケールの表記はありませんが、ティラノサウルス、トリケラトプスとも1/48~1/55くらいのサイズ感です。説明書には攻めた内容の解説が要所要所で挟まり、組み立て工程の中で自然と脳に流し込まれていきます。

▲まだ骨のままですが、同シリーズのトリケラトプスと戦わせてみました。分割の関係上、舌のパーツ(B2-18)を取り付けてしまった方が、下顎がそれらしい形状になります。

 後肢の関節は付け根以外ヒンジ式で、足首をひねって見栄を切ったりはできませんが、これは「本物」と同様の構造だったりします。一方で、肩関節は大胆なボールジョイント式になっており、「模型化」とはどういうことか、バンダイスピリッツがどう恐竜と向き合ったのか、何を取捨選択し、デフォルメしたのかがぼんやり見えてきます。

 ひとくちに恐竜プラモと言っても、どっちを向いてプラモデルにするかというのは案外まちまち。近年のフジミの恐竜シリーズは、ジュラシック・パークの「登場キャラクター」を強く意識したスタイルです。今回紹介しているプラノサウルスシリーズも、骨格からしてデフォルメの方向性はそれと近いように見えます。余談ですが、ジュラシック・パーク第一作の公開直後に始まったタミヤの1/35恐竜世界シリーズは、「ヒサクニヒコ先生(監修者)の描く恐竜」の立体化という意味合いの強い造型だったりもします。

 フジミの恐竜、そしてプラノサウルスと、実在する生物におけるキャラクター性(?)の表現に重きを置いたプラモデルが続々と発売されたことで、「モチーフの形状の再現により重きを置いた令和の恐竜プラモ」という新しい可能性も生まれてきました。恐竜も可能性の獣なのです。

▲ひとまずの完成形はこう。せっかくの可動範囲はかなり制限されますが、ちょっと動かすだけでずいぶん表情が変わってきます。

 骨格だけなら、2021年に単発で発売されたLIMEX製のものとそう違いはないはずです。「プラノサウルス」の名のとおり、繊細かつ大胆な造形の、生々しさとカタさの同居した外装パーツが付いてきます。プラの肉厚=推定される筋肉や皮膚のリアルな厚みというわけにはいきませんが、筋肉や皮膚が付くことで、骨格から劇的にシルエットが変わるということを教えてくれます。

▲実在するモチーフの、実在するかどうかわかっていないパーツを集めたランナー

 羽毛の直接証拠は未発見ですが、ここ10数年の研究で「ティラノサウルスには羽毛を生やして復元してもいい」ということが示されています。というわけで、首筋や尻尾、前肢には羽毛の生えた部品が選択式で用意されています。スナップフィットなので、後から差し替えることも可能です。「諸説あります」がこのランナー1枚に凝縮されているのです。

 羽毛部分に貼るためのシールが付いていますが、もちろん鱗の部分を含めてどういう色で塗ってもアリでしょう。少なくともプラモデルの作り方としては。

▲シール貼りが一番テクニカルかつ不可逆的。「白目」が基本見えない動物のはずなので、スミ入れペンで眼を塗りつぶしちゃうのも手です。

 長々と書いてしまいましたが、このキットは単に組み立てるだけなら一瞬で終わります。工具もいっさい必要ありません。そして、骨格とガワの分かれた恐竜の模型はプラノサウルスが初めてでもないのです。でも……。

 プラモデルに親しんだ方なら、「遊びながら組んだ」経験がきっとあるはずです。組み立てるという行為そのものが遊びであり、遊びの中には自然と学びも生まれてくることでしょう。その上で、キットにはない遊びや学びを加えることもできます。プラノサウルスはそんなプラモデルのように思えます。

▲同時発売のトリケラトプスと。

 かつてタカラトミーは、ゾイドワイルドの「復元の書(=組立説明書)」に「※動かない時は復元を見直そう!」と書き、古生物学者やその関連職の人々に復元という行為の本質を突きつけました。そしてバンダイスピリッツはプラノサウルスの紹介ツイートに「#恐竜を知り尽くせ」のハッシュタグを付け、古生物学を根底から揺さぶっています。

 恐竜を知り尽くせないまま、筆者は恐竜を描いて稼いだお金で恐竜のプラモデルを買いました。プラノサウルスのパッケージにはこう書かれています。

「つくる。だから発見がある!」

 おっしゃる通りです。新たな恐竜プラモデルのシリーズとして祝福されるべきプラノサウルスですが、恐竜を知り尽くすために汗を流してきた筆者もまた、プラノサウルスに祝福された気分です。プラモデルではなかなか見かけない恐竜というモチーフですが、モチーフの形や構造を模したものを組み立てていくことを通じて、恐竜とそれからプラモデルの根源的な魅力のひとつを教えてくれます。

プラノサウルス ティラノサウルス 色分け済みプラモデル

G.Masukawa a.k.a.らえらぷすのプロフィール

G.Masukawa a.k.a.らえらぷす

1994年生まれ。恐竜の化石から骨格図を描き起こしてごはんを食べています。著書に「ディノペディア Dinopedia: 恐竜好きのためのイラスト大百科」、「新・恐竜骨格図集」、イラスト展示制作に「恐竜博2023」、「ポケモン化石博物館」ほか多数。

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