「巷を騒がせた完全合体変形のMODEROIDザブングルに続き、ハセガワが1/72でザブングルを発売する!」という春のお祭り状態。しかもプラスチックパーツでほぼ設定通りの色分け済み、接着剤不要のスナップフィット仕様で、ポリパーツを使用した可動モデルと来たら、「あなたにもお手軽に組めるよ!オススメ!」という記事を期待するでしょう。どっこい、今回のハセガワ製ザブングルは普段みなさんが組んでいるロボットモデルとは明らかに違う、ちょっと不思議なプラモデルでございます。
いかにも飛行機模型で見られるような翼の折り畳み用ヒンジの彫刻は脊髄反射で「さすが飛行機のハセガワ」と言いたくなるポイント。しかしハセガワのここ10年のラインナップのなかで、新規に設計された飛行機モデルはわずかに10点程度にすぎません。現在ハセガワが手掛けているのはキャラクターモデルやカーモデル、自動販売機や女の子フィギュアなどなど、とにかくバラエティに富んでいて「老舗のスケールモデルメーカー」から「総合模型メーカー」へと大変革の真っ最中です。でも、フルカラーの可動人型ロボット(しかも全高259mmというビッグサイズ)となると、同社にとっても初めてのチャレンジになります。
上品で端正なディテールが目を引きますが、パーツの肉厚はかなり薄め。表面のディテールをスポイルする「ヒケ(プラスチックの収縮)」をなるべく出さないようパーツの裏にほとんど補強のリブも入っていませんし、端面を折り曲げて剛性を出したりといったいかにもプラモデル的な処理に頼らず形状に向き合っています。パーツ同士の合わせは高い精度ではあるものの、ガンプラのように「いちど組み付けたらバラすのに難儀するほど強固!」というわけでもありません。組んでいるときの感触はあくまで「組み付けるとパーツがその位置にとどまる程度の嵌合」という印象です。
また、従来のハセガワの可動モデルでは「小さめのポリパーツで力のかかる軸をなんとか保持する」という心もとない部分がありましたが、今回は大型モデルなのでポリパーツを新造。大径のポリキャップや穴のふたつ開いたポリキャップでどんな軸もガッチリ保持してくれそうじゃありませんか。ここは素直に「やっと新しいポリパーツを開発してくれたんだね!」と喜んだポイント。
しかし、ポリパーツが猛烈にシブくて、プラスチックは薄くてちょっとユルい……というのは、組み始めるとかなり異質に感じます。可動部がスッと動いてピタッと止まるというよりも、かなりの力を入れないと関節が動かず、それにつられて周囲のプラパーツが軋むのを感じるはずです。頑丈さとスムーズな可動を両立する、というロボットモデルの設計ノウハウが、ガンプラではものすごく高次元にまとめられていることが改めて感じられる次第。
ではハセガワはそのことを理解していないのか?というと、さにあらず。今回は1/72スケールで変形合体ギミックをあえて排し、同社のストロングポイントである「ギミックよりも目指すべき外観を最初に決めて、それをしっかりと追いかける」「スケールモデルらしい繊細なパーツに端正なディテールを入れる」ということを選択しながら、間口を広げるために「ひとまず完成形まで組み上げるだけならば、ガンプラを組むのと同等のスキルがあればOK」という設計を取り入れています。よって、(それがいいことなのか悪いことなのかではなく)一般的なロボットモデルと同じ水準の剛性や可動のスムーズさは持ち合わせていません。
結果的に「パッと見の構成はガンプラのようだけど、組み味は極めてスケールモデル的」という、ガンプラ基準で見ると異質なキットに仕上がっているのが今回のザブングル。色分け済みのパーツは塗装の手順が明快に理解できるし、スナップフィットは仮組みをするときにも接着剤いらず。そしてポリパーツは「フルアクション」を実現するためというよりむしろ、ユニットごとに組み立ててから最後にそれぞれを接続する……という工程を実現するのに寄与しています。
ポリパーツの渋みに耐えきれないほど繊細な構造のプラスチック製フレームや外装も、接着剤でビシッと貼ればちゃんと剛性が出ますし、合わせ目処理をして全体を塗装する程度のテクニックを持っている人ならば、このキットのポテンシャルを引き出すことができるはずです。逆に言えば、ガンプラみたいにニッパーだけでスパパパーンと組んで、ガッシガシ動かして遊ぶことを推奨できるプラモデルではないのよ、というのがホントのところ。
ひとまずストレートに接着剤を使わず組んでみましたが、各ユニットが形を現すまでに土日の午後を費やし、全ブロックを接合してビシッとポーズを取らせるためにはそこから30分ほど根気よく取り組む必要がありました。ユルいところ、硬いところ、あきらかに接着したほうが安心できるところが各部にありますが、そうした箇所を見極めて対処できる人ならばもうすこし手際よく組み上げられます。もしもポーズを取らせたければ、関節部を慎重に掴んで、ゆっくり確実に力をかけることを心の底からオススメします。
色分け済み、スナップフィット、ポリパーツ同梱のアクションモデル……と捉えるとなかなかビックリするかもしれませんが、「昔ながらのスケールモデル的なプラモデルに対してこれらの要素を取り入れ、単色/固定モデルにはないプレイバリュー(と、「チャレンジできるかも!」と思えるお客さん)を広げる」という取り組みだと捉えれば、なるほどこのキットの手触りもむべなるかな、といった見方に変わるはずです。
もちろんこれからハセガワが同種のアイテムを展開し続けることで設計の知見が蓄積されていけば、より高い剛性やスムーズな可動を実現できるはずですが、少なくとも今回のザブングルは繊細さ(あえて言うならば、手荒に扱うことを許してくれないスケールモデルのような「脆さ」)があります。いわばその”繊細さ”こそが、ハセガワに受け継がれているスケールモデルメーカー的なDNAなのかもしれません。
完成してみれば、右のMODEROID版とはまったく趣を異にするザブングルが立ち現れます。形やディテールの好みはあれど、大きな体積を持ちながらどこか朴訥とした面構成にハセガワらしい細い線が入れられたこの佇まいは、ある意味で「リアル」を感じさせる……というのはおべんちゃらでもウソでもありません(正直、ワンダーフェスティバルの会場に展示されていた塗装済みの完成見本は「おおっ!」と息を呑むような迫力がありました)。
そこに至るまでの組み立て工程にはかなり歯ごたえがありますが、独特の存在感とシャープネスを持ち、合体変形機構を排して「徹底的にひとつのシルエットとディテールに全振りしたザブングル」と向き合ったハセガワ。これをどんなふうに捉えるのか(そして感じたことをどう表現して、メーカーにエールを送るか)は、ユーザーの肩にかかっています。「我こそは!」と感じたそこのアナタ。組んで、評して、今後も展開されるであろう(されてほしい!)ザブングル模型のさらなる発展に一役買ってください。みんな、走れ!
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