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「みんな、作れ!」/リアルさと荒唐無稽さを空中で合体させたMODEROIDのザブングル


 人気のあのロボットが○○年ぶりに新作キットとして登場!というスタンスで現れるプラモデルも随分と増えてそれ自体は珍しくないといえるところまで来てしまった。 MODEROIDザブングルもまさにそんな珍しくもなくなった最近流行りの「古いアニメ作品からのニューキット」だ。

 「リアルロボット」と括られるジャンルの中でも放送当時の恵まれた商品群を持つ『戦闘メカザブングル』というタイトル。ガンダムに続くリアルロボット系作品として登場した本作品の主役メカであるザブングルは実のところ作品世界の中でも群を抜いて荒唐無稽な「リアルからほど遠い」メカニックといえる。

 ガソリンを燃料に車と同じ丸ハンドルで操縦する、おおらかなリアリティラインを引いた世界観の中にあっても、2機の飛行機に分離変形し、さらに車(牽引車と荷車)へと変形合体する。玩具メーカーがスポンサーにつく番組であるが故の「売れる玩具として外せない合体変形要素」であるのだけれど、結果としてザブングルは「緻密なモールドが満載のリアルロボット」と「2段階に変形合体するスーパーロボット」の要素を同時にクリアしなければ「満足な再現度を持ったプラモデル」にならない存在になってしまったのだ。

 放送当時のプラモデルはロボットの姿に絞っての商品化。40年を経た今新たにプラモデルを起こすのなら当然のように前述の「荒唐無稽な変形合体」の再現を期待されるのは当然の事と言えた。さらに重ねて言えばMODEROIDブランドが成形色でのカラー再現、スナップフィット、フル可動/ギミック再現をこなす……事実上のガンプラにガチンコバトルを挑むような性格であることもユーザーの期待に拍車をかけた。

 これまでにも合体変形可能なザブングルは完成品で何度か商品化されているので参考に出来る対象にも困らない環境が整っていたといえる。にもかかわらずMODEROIDにはそれまでの完成品のどれとも異なる独特の構造をもったギミックが新たに起こされた。

 特筆したいのは上半身と下半身に分離に始まるブングルローバー(下半身)のギミック。既存商品が上半身の腹部に収めていたローバー用の操縦席がスイングアームで移動してオシリの一部を構成する。腹部に収まったら腰が回せなくなっちゃうから?イヤ、完成品トイでは回せているのだから別に困らないのでは?設定画や劇中の描写を見る限り、腹部に刺さるように収まるのが正しいのだけれども「あえて」こういうアレンジを採っている。

 足回りに目をやれば、つま先がスライドして縮み、足の甲から伸びるカウルはスネ側末端でインテークとして展開し、つま先側にオフセットされた足裏エンジンノズルと一直線に並んで飛行形態でのジェットエンジンとしての説得力を持つ。これもアニメの設定画には全くないアレンジで、こんなことをしなくたって「変形」の要件は十分に満たせるはずだ。むしろアニメのスタイルからは離れてしまう。他にもスネ横の翼の畳み方をはじめ、このキット独自のアレンジは枚挙にいとまがない。アニメに近しいスタイルで成立した既存商品が既にあるのとういうのに、なぜわざわざ変えてしまうのか?

 それは「本物を想像」した時に「既存の完成品トイの構造が『リアル』を感じられなかった」からに他ならない。表面のスジボリやリベット彫刻に限らず、構造レベルで「リアルな変形」を表現するとこうなる、というMODEROIDザブングルが「リアルロボットプラモデル」たらんとする強烈な意思だ。

 別に開発者と対談して言質をとったわけではないから、あくまでもいちユーザーが商品を手に取って抱いた妄想でしかないのだけれど、自分にはわかったね。「リアルロボットプラモデル」にどっぷり浸かってきた人たちならみんな「……わかる」ってつぶやいてるに違いない。「なんとなく今風にしました」ではなく「リアル」を丁寧に積み上げていった、そしてその積み上げた「リアル」がアニメの矛盾をつくだけの「野暮」になってしまわないギリギリの線上にバランスさせた上質な仕事に仕上がっていると思う。

 このアレンジこそが正しいとか大正解なのでみんなもどうぞ…って話ではない。このアレンジが好きであっても嫌いであっても、このプラモデル自体が「リアルなザブングルってこんな感じなんじゃないか?」と問いかけてくる。あの頃「リアルロボット」という模型ジャンルが謳っていた「リアル」というのはつまるところこういう態度のことなんだという矜持が詰まっている。特に、迷わず買ったにもかかわらずなんとなくまだ積んでいるんだという放送当時からの生粋のザブングラー諸兄におかれましては、まずは一度組んでみて欲しい。

 最後に箱の話もしておきたい。放映当時に展開されたバンダイの1/100ザブングルシリーズは「白バック」の箱デザインを採用した。白地に素立ちのイラストを配するデザインは、タミヤ1/35MMシリーズを意識した「硬派なスケールモデルの立ち居振る舞いの引用」としてなされたものだ。2008年に25年ぶりの1/100新製品として発売されたウォーカーギャリアもブランドこそR3(リアルロボットレボリューション)シリーズの枠ではあったけれど、放送当時製品を踏襲した白バック×素立ちの箱デザインだった。

 同じように1/100であるMODEROIDザブングルも「白バック×素立ち」を踏襲……しなかった(!)。あくまでも別のメーカーだから仁義としては全く妥当な判断ではあるのだけれど、白バック×素立ちのフォーマット自体は他社が使ってはいけないバンダイ独自の意匠という訳ではないので、あたかもバンダイと地続きの製品であるかの様な顔をしてぶら下がることだってできたと思う。でもそうしなかったのは、バンダイが手を付けない未リニューアル製品の穴を埋めるニッチ仕事ではなく、あくまでもMODEROIDOブランドの1/100ザブングルなのだという意思を感じる。

 そんないちユーザーの妄想でしかない仁義の話は置いておくにしても、この白バック×素立ち”じゃない”ボックスアートはまた別の意味でも面白い景色を見せてくれた。

 2022年末のホリデーシーズン、ほぼ同時に発売された「背景にアイアンギアの描かれたMODEROIDザブングル」と「搭載メカとしてザブングルの描かれたハセガワ製アイアンギア」のキット。あわせ鏡の様な構成のボックスアートが共に新製品として売り場に並ぶ事になったのだ(!)。

 疾風僕らの行く手に待つは、怒涛のごときリリースです
 作る相手はグッスマ、ハセガワ、プラキット
 ここぞとばかりに発売される、ザブングルに、アイアンギアとその一党
 サイフをもって、売り場に行けば、これぞ世紀の新キット

 さぁ、みんな、作れ!

HIROFUMIXのプロフィール

HIROFUMIX

1983年生まれ。プラモデルの企画開発/設計他周辺諸々を生業にしています。

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