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模型と玩具の境界線を飛ぶサブフライトシステムのプラモデル/『機動戦士ガンダム 水星の魔女』ティックバラン

 サブフライトシステムを捕まえて「人間の10倍くらいの大きさのロボットが飛行機に乗って空を飛ぶわけがなかろう」と言ったらそれまで。だけど、このプラモデルは飛行機としての機能とか、”それっぽさ”をどうやって表現するか……ということにはわりと真面目にトライしている気がするんですよね。とんでもメカであることは間違いないんだけど、そこかしこに「なんだかギリギリ、飛行機なんですよ」という風情がある。だから、研ぎ出していくとちょっとリアルに感じられるかもしれないっていう予感がある。いきなり何を?

 というわけで、サブフライトシステムが大好きな私です。ものすごく大雑把に説明すると、ガンダムシリーズで「自力で飛べないロボットが乗ったりしがみついたりして空を移動するための飛行機」がサブフライトシステム。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』ではティックバランという名前でちょっと不思議なカタチの機体が登場しています。バンダイスピリッツは世界でいちばんロボットのプラモデルを作るのが上手い会社だと思いますが、「ロボットじゃないもの」になると、かなり不思議な努力の痕跡に出会うことがあります。私はそこんところを味わうのが超好き。

 もう結論を書いちゃいますが、車輪の展開/収納状態を完成後も動かして楽しめるんですよこのプラモデル。でも上の写真を見れば分かるとおり、そのギミックは「爪のついたトビラを開いて車輪のついた基部をどんでん返しにする」というかなり思い切った方法で実現。いや、現状ティックバランの設定画が世間に出ているわけじゃないんですけど、とりあえず実物の飛行機でこんなふうに3つのタイヤが180度グルンと回って出てくるなんてのはたぶんない。

 タイヤもすっごい割り切りで、3つ繋がった状態で1パーツになっているんですよね。いまどき、いわゆる飛行機のプラモデルでこんなパーツを入れたら「コラー!」って怒られそうですが、ガンダム世界のプラモとして、ガッチリしていてモビルスーツを上に載せたり下にしがみつかせたりしてガンガン遊ぼう!っていう話になると、これは確かに正しい選択なんすよ。「ティックバランが欲しい人は、リアルなガンダム世界の飛行機を手に入れたいのか、それともモビルスーツと合体させて劇中のシーンを再現したいのか、さてどっち!」って言ったら絶対後者だもんな。

▲主脚が6輪の代表例、ボーイング777型機(筆者写す)

 完成していちばんびっくりしたのが機体下面の紡錘形のフェアリング。これ、じつは組み立て工程のいちばん最初に取り付けるパーツなんですが、なんか前後にスライドする。なんでだろうと思いながら最終工程を終え、説明書を眺めてびっくり。フェアリングをスライドさせて出てくる8角形の穴は「飛んでいる状態で飾るときのスタンド(別売り)を刺すところ」なんですよ!「飛行機模型を空中姿勢で飾ろう」というのはわかる。「じゃあ腹に穴が必要だよね」というのもまあわかる。でも、「その穴(完全に玩具としての模型のギミック)を隠すために機体の一部を割って前後にスライドするようにしよう」って、実在する飛行機ではまずやらんよな!

 でもね、「着陸脚がどんでん返しとか、腹がパカパカ動いて実在しない穴が出てくるなんてリアルじゃないぜ!」とか言いたいわけじゃないんです。「お、飛行機みたいな物体の模型だ!」と思って買ってきたら、モビルスーツと組み合わせて遊んでほしい……という頑丈で楽しい仕掛けがそこかしこに潜んでいる。ガシガシ遊ぶ玩具とカタチを写し取る模型の境界線にある。おかげでこれをガチャガチャ動かして遊んでいると「なんなら逆に、こんな仕掛けが取り入れられた実在の飛行機の模型を想像するのもちょっとおもしろいんじゃないの?」と思う私もいる。だからあなたもぜひ手にとって、組んでください。「遊べるって、案外いいなぁ」という気持ちが、きっとムクムクと湧き上がってくるはずです。

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からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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