

タミヤの戦車模型「ミリタリーミニチュア」(以下MM)のプラモデルといえば、白地に車両や兵士がバーンと描かれ、イカしたタイポグラフィがビシッと決まったあの箱が目印。しかし、長い歴史の中には例外もありました。例えば、1980年代後半~1990年代の頭ごろにかけては、「限定生産キットの箱絵は背景付き」というルールがうっすら存在したこともあります。
今回ご紹介する「ソビエト T34/76戦車 1943年型 チェリヤビンスク」も1990年の発売で、当時の限定生産キットのひとつです。箱絵では、そりゃベルリンも陥落するわという勢いでT34とソ連兵の皆さんが激闘を繰り広げております。

T34は1940年にソ連で完成した戦車なわけですが、翌年にはドイツがソ連に攻め込んで独ソ戦が勃発。独ソ戦はソ連からすれば「始まった瞬間から本土決戦」みたいな状況だったので、戦車の生産設備を高速かつ大規模に疎開させる必要がありました。
そんな国家規模の大混乱の中でとにかく大量に戦車を作りまくる必要があったため、仕様の統一なんて細かいことは言ってられません。そのため、T34という戦車には「いつ、どの工場で作られたのか」によって細かい差異が無数に存在します。で、このキットのT34は、チェリヤビンスクのキーロフ工場で作られたものを再現してますよということなんですね。
キーロフ工場生産型のプラモデルではありますが、ベースになっているのは1975年に発売された「ソビエトT34/76戦車 1942年型」。まずT34のプラモデルがあり、そのバリエーションとして特定工場の生産型が発売されたわけで、これは実車と同じような販売方法ですね。




ということで車体部分はおよそ50年近く昔のプラモデルですが、これがまあ惚れ惚れするほどのシャッキリ感。車体の装甲板の刃物のような平滑さ、立ちまくったモールドのエッジ、そしてそこにウネウネと彫られた車体機銃マウント溶接跡の強烈な異物感……。車体パーツは光り輝くような彫刻が見どころです。冷戦真っ只中に発売されたキットだし、取材も大変だったと思うんですが、よくもここまで自信に満ちた彫刻ができたものだと感動しちゃいますね。


これがキーロフ工場で作った鋳造砲塔。鋳造だと一発で砲塔が形になって生産効率がいいとのこと。この砲塔をつけたT34は100輌くらいしか生産されなかったそうですが、後のソ連軍鋳造砲塔搭載戦車の開発に影響が大きかったのです
本キット用の特別パーツは、1枚のランナーにまとめられています。やはりこのキットのもうひとつの見どころは、鋳造砲塔のゴツゴツした荒っぽさでしょう。いわゆる「1943年型」のT34の特徴はそれ以前に比べて大型化した六角形の砲塔ですが、キーロフのT34は多面体っぽいエッジがそこまで立っていない、全体的に丸っこい形をしているのが特徴。砲塔表面のザラッとした荒れっぷりがムチャクチャかっこいい。これをあのシャキッとした車体に乗せると、部位ごとの製造方法の違いまでわかるわけです。



そしてこのキットのさらなる面白みが、付属しているロシア兵の表情。見ての通り、まるで大祖国戦争の記念像のような塑像感。歯を食いしばっている頭もウシャンカを被っている頭も、まさにロシア兵という無骨さです。デグチャレフ対戦車ライフルやDShK-38重機関銃といった大型の火器のモールドは今見ても十分なシャープさだし、おそらく陣地構築とかに使うのかな……というレアアイテム「のこぎり」が付属しているのもたまりません。
というわけで、「T34/76戦車 1943年型 チェリヤビンスク」でした。70年代MMの輝きと、限定パーツのありがたさを両方味わえるお得なキットと言える内容です。どうやら限定だったのは少し昔の話らしく、今は各種通販などでも普通に買える様子。最新のプラモデルより価格が安めなのも魅力だし、おまけ付きの戦車プラモとして今でも充分オススメできるキットです。