
2023年1月11日未明。プラモファンのごく一部界隈は、ビッグニュースに沸いていました。1950~60年代に活躍した対潜機フェアリー・ガネットが、英国の老舗プラモブランド・エアフィックスから新金型でリリースされることが発表されたのです。待望の機種選定に英国機プラモファンは大いに熱狂し、深夜の発表ながらタイムライン上には歓声がこだましました。
しかし、わが家の押し入れには、そんな様子を寂しそうに見守る一箱があったのです。

そう、わが家には既にガネットのプラモたちがいくつか棚に入っているのでした。それじゃあ、新世代が手元に届くまでの間に、ベテランのガネットたちの作り比べをしてみるのも悪くないかもしれません。
ということで今回選んだのは、イースタンエクスプレスというメーカーの1:72フェアリー・ガネット。それでは早速開封……って、あ、あのー、パーツが無造作にビニール袋に入っているのが気になりますが……。

ランナーはまるで葉脈、あるいは系統樹のような形になっていて、幹から生えた小枝の先端に各パーツが鈴なりにぶら下がっています。この姿は、いつものプラモとあまりに違ってちょっと不気味。まるで古代遺跡に迷い込んでしまったかのような……。

続いて、大きな胴体パーツがビニール袋からガランと飛び出てきました。コックピットにご注目。えっ、切り絵のようにパイロットの頭のシルエットが……!?
そう、胴体はこの左右を貼り合わせるだけ。コックピットはいっさいなし。パイロットたちが虚無からヌッと顔を出しています。ええーっ、そんなのアリですか!?

……意外といい感じに見えてきました。
さて、そろそろお気づきでしょう。このキット、ルーツを辿れば実はとんでもない年代物。元はといえばイギリスの今はなき名門メーカー・フロッグが発売したもので、それはなんと1956年のこと。フロッグの事業終了後、その金型は当時のソ連領内のエリアを中心に流浪の旅を続け、発売元を変えながらも現在に至るまでカタログ品であり続けています。昨今の情勢で入手は困難になりつつありながらも、67年前のプラモがいまだ現役……。ウソみたいな話ですが、とにかくこれはなかなか得がたいプラモ経験になりそうです。

さて、虚無から首を出すパイロットたちも、色を塗ってみればそれっぽく見えるようになってきました。パーツの合わせは全体的に良好で、ご覧のとおり色を塗ってから合体しても問題ないくらい。プラモって、67年前からこんなに精度の高いものがあったのですね。
主翼下面にはお気づきでしょうか? そう、このキットには脚収納庫が用意されていません。でも黒く塗ってしまえば、これまたそれっぽく見えるような気がしてきました。むしろ、シンプルな構造ゆえ意外と頑丈で安定しています。なるほど、当時のプラモがどういうものだったのか、だんだんと見えてきたかもしれません。

できました! 67年前のプラモといえば、もはやちょっとした骨董品レベルでしょうか。となれば、下手に手を入れず当時のプラモ作りを追体験してやろうという気持ちになってきますから、肩の力も抜けるというものです。そう決めたなら、完成はあっという間。コックピットも脚収納庫もありませんしね。こうして、このプラモ界の『生きる化石』は2023年の東京に完成をみたのです。エアフィックスの新製品が発売されたら、67歳差のツーショットを撮るのも楽しみですね。
じつは、流浪の旅を続けるシーラカンスのようなプラモはまだまだたくさん存在しています。たまにはこんなキットでプラモ文化遺産見学をしてみるのも、悪くないですよ。