プラモ屋さんの入口をくぐるとき、われわれは大きく二種類の人間に分けられます。 それは、「○○のキットを買いに来た!」という人と、「なんかええ感じのやつないかな……」 という人。
このプラモを手に入れた時のわたしは、完全に後者でした。「なんかこう、週末で組めそうなやつを……」と曖昧な気持ちでプラモ屋さんに入ると、ちょっと異様なオーラ を放つプラモと目があったのです。
エデュアルドの1:72 アビアCS-199。知らない飛行機です。形はどう見てもメッサー シュミットっぽいけど2人乗り。銀色の機体には明らかにドイツではないマークが描かれています。なにより箱絵がいい。あっ、これはもしかして、プラモメーカーが自国の飛行機をバキバキの熱量をもってプラモ化したタイプのアイテムか…… !? 少なくとも、 このオーラからはネガティブな未来なんて想像できません。気になる……ということで、買って帰ることにしたのです。
箱を開けたところ、その予感は正解。むしろ想像以上でした。手のひらサイズの1:72 スケールながら、考えうる全ての彫刻が盛り込まれているのです。パーツ表面には無数のリベットが端正に並び、そのシャープなエッジからは手の込んだ工芸品のような気迫が感じられます。
エデュアルドはもともとアフターパーツの名門。自社製品シリーズにも当然その技術が惜しみなく注ぎ込まれていて、この CS-199 には着色済みのエッチングパーツが付属していました。プラ以外の素材が入っているとドキッとする方も多いかもですが、これなら切って貼るだけで精密感が急上昇しますから、面倒なものではまったくありません。むしろありがたく活用していきましょう。
操縦席から組み始めてみると、エッチングパーツの効果は抜群。機内はザザッと塗っただけですが、シートベルトが付くとなんだか精密に見えてくるから不思議です。
パーツは全部使わなきゃと思ってしまいがちですが、おいしいところだけ使う贅沢もまた一興。こんな選択ができるようになるとはわたしも大人になったものだなあ、と妙な感慨に浸ります。
精密感高めのプラモとはいえ 1:72 の単発機ですから、その気になれば組み立てはあっという間。その生真面目なくらいタイトかつ正確な組み味を満喫しながら、濃度の高い作業にしばし没頭できました。
そうそう、近年のエデュアルド製品を組むと感じるのが、「なぜか埋もれない」こと。一見するとデリケートに見えるパネルラインやリベットが、筆塗り後でもきっちり残りやすいのです。だから楽しいのがスミ入れ工程。塗料がツツーッ……と気持ちよく流れていき、キットの持つうつくしい彫刻を引き立ててくれるのです。快感……。
できました! 高密度のリベットが目立ち、引き締まって見えますね。入魂のディテールアップ作品を仕上げたかのような錯覚に陥りますが、実はこれ、箱を開けてから一日で完成しています。キットの精密な彫刻のおかげで、手軽にリベットばきばきのプラモを味わえたのでした。
知らないモチーフのプラモでも、オーラを信じて手を伸ばしてみればこんな出会いもあるんですね。プラモの神に愛されてるかもしれん……などとほくそ笑みながら、棚に飾っています。