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超絶ディテールを実現する裏のフィクサー/タミヤの最新飛行機プラモ、F-35Aのウェポンベイに慄く!

 タミヤF-35Aの大トロはここ。お腹の中爆弾やミサイルを隠すための兵装庫です。縦横に走るリブと小さな機器類、そしてそれをつなぐウネウネした配線。これがワンパーツ!はいスゴい!さすがタミヤ!成形技術がエラい!と思うでしょう。まあオレも思う。確かにスゴい。しかしワンパーツに彫刻をいっぱい入れまくってとんでもない情報量にしますというのはタミヤだけの専売特許じゃないし、なんというかこう、やろうと思えばできるんですよ。やるのが大変なんだけどさ。

 こうやって自分がルーク・スカイウォーカーになったつもりでガーッとパーツに寄っていくと「ここだけでスター・ウォーズが撮影できちゃうじゃん」みたいな気持ちになる。しかし驚くのはこっち側じゃない。裏だ。裏を見るんだ、ルーク……。

 そうしてパーツを裏返すと、そこにはまたなんかマンハッタンの地図みたいな縦横無尽に走る凸型のリブに遭遇するわけですよ。実機もこうなってるんですか?なってません。なんでこうなっているのか。それは「めちゃくちゃいっぱい彫刻しまくったパーツは摩擦抵抗が高まりすぎて金型にへばりついてしまうから」なんです。いやいや、へばりついたら棒とかで押せばいいじゃないっすか。それが皆さんもごぞんじの「突き出しピン」というやつ。あのパーツの裏側に丸い痕跡を残す憎いヤツですね。

 基本的にプラモの金型は完成後にパーツの表になる方を「キャビティ」、裏になる方を「コア」といいます。これがニコイチになってできた空洞に高温高圧でプラスチックを流し込みます。さらに、プラモはふつうパーツの裏(コア側)にダボやらピンやらリブやらいろんな摩擦抵抗になるものがあるので、つるつるしている表のほうは金型(キャビ側)からスルッと外れてくれるということになっています。そしてへばりついた金型のコア面から突き出しピンがニューっと出てきて、ランナーを金型から取り外してくれる。

 しかし、このF-35みたいな兵装庫の超絶な彫刻(=猛烈な摩擦)があるとコア側ではなくキャビ側にパーツがくっついてしまい、「へばりついたパーツを棒で押して取り出す」ということができなくなってしまう。困った。たまに「じゃあキャビとコアを逆にすればいいじゃん」というプラモもあるにはあるんですが(家にあるプラモをこれからじっくり観察してみよう!)、そうするとパーツの表側に突き出しピンの跡が残って悲しいことになります。

 そうならないように、タミヤは今回、パーツの裏側に「表側に負けないくらいの摩擦」を彫刻してしまおうと考えました。しかも、適当に凹凸を付けると表側にヒケが出てしまうので、パーツの厚みをコントロールしてヒケの目立たない設計にしている。そうすると表側の彫刻と呼応するようになって、この地図みたいなリブができるんですね。表と同じだけ、裏もめちゃめちゃ精密に設計する。見えなくなるパーツの裏側に膨大なコストがかかっている。全日本模型ホビーショーでこの解説を聞いていた模型メーカー各社の開発マンはこぞって「なんということだ……」と天を仰いでいました。

 幸い、僕らはそんなことを気にせず「うっひょ〜!超絶ディテール!」と叫びながらパチパチ貼ってこの彫刻を楽しむことができます。「氷山の一角」なんて言葉がありますが、びっくりする見た目を実現するためのデッカい隠れたアイディアがここには潜んでいます。知らぬが仏でも全然遊べるし、ぶっちゃけユーザーはそんなこと知らなくてもいい。それでも美観と精密さと組みやすさは絶対にトップレベルを走り続ける!涼しい顔してとんでもないのが、タミヤの最新作、F-35Aなんですな。そんじゃまた。

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からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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