タミヤのF-35Aがすっごいという話をしますが、今日の話はホントに豆知識。胴体の上面がドカーンと1パーツでしょ。で、周りにランナー(プラスチックの枠)が走っています。タッパーウェアとかを裏返すとわかりますが、デッカくて一体の成形品はふつうプラスチックを中央から流し込むので、その痕跡が残っています。胴体でこれをやると背中のど真ん中に湯口が来てしまう。それは困る。ユーザーがキレイに削り落とさないと、「ここからプラスチックが入りましたよ〜」という痕跡が残ってしまうもんね。
タミヤの最新作、1/48のF-35では胴体のど真ん中にゲートの跡が残ってしまうのを防ぐために、ランナーの途中に丸いゾーンをいくつか設けてあります。丸いゾーンは真ん中が一段落ちた形状になっていて、その中心にちょこんとプラスチックが切断された点のような跡が残っています。下の写真だと左右にひとつずつ見えますね。
この胴体、通常はたい焼きを作るように上下に分離する金型に加え、「プラスチックを胴体の周囲から流し込む通路」を作るための金型を加えた「3プレート」と呼ばれる方法を使って作られています。金型を3枚重ねにするのはそこまで珍しいことではないのですが、胴体表面にゲートが来ないように周囲のランナーに向かってプラスチックを流す……言葉だと伝わりづらいので図示すると、ユーザーが目にするのは赤い部分が切り離された状態ということ。
正直、われわれユーザーからしてみたら、説明されて初めて「あ、そうなんすね」という話なんですが、確かに多くのメーカーの大きな飛行機模型で「胴体の上下表面に点々とゲート跡が残っている」というパターンは散見されます(そして一度気になるともうこれを綺麗サッパリ削り落として磨き上げないとモニョモニョするのだ!)。今回は至高のスタイルをいっさい損なわないよう、タミヤがわざわざ見えない工夫をしているという寸法なんすよね〜。
胴体下面のパーツも同様の方法で作られています。爆弾やミサイルを収める部分は大きく口を開けているので全体の強度が損なわれ、変形なんかも心配になりますが、本作ではいっさい気になりません。それもこれも、「プラスチックを適切な圧力と温度で金型に注入し、必要な場所には補強のランナーを走らせ、冷却と取り出し、箱詰め〜輸送の過程を経てもちゃんと組めるようにしといたからね!」という気遣い。
ちなみに機首のパーツは上下面の加えて左右側面の彫刻も再現できるようスライド金型を採用。正面から見るとXのカタチに走るランナーがパーツ全体を立体的に囲っていて、これまたカッコいい。あまりにカッコいいので動画を撮ってしまった。見て。
ということで、ただ精密でキレイというだけでなく、「余計なゲート跡も残したくないけど、その努力は見せないぜ……」という粋な計らいが今回のF-35Aには込められています。いいお店で生ビールを頼むと最初にサーバーから出てきた泡をしっかりこぼしてからキュッと定量注いでくれるようなあの感じ……。完成時の見栄えを良くするための隠れた技術、知っておくとこのプラモデルがいかにスペシャルなのかがいっそう身にしみますな。そんじゃまた。