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零戦はガンダムなのかザクなのか/チェコのプラモデルメーカーが見た「日本の切り札」の姿。

 零戦は日本人にとって主役メカ。「すんごく強かったんでしょ?」とか「すんごく象徴的な戦闘機なんでしょ?」というイメージだと思う。強くて象徴的で美しい、いわばガンダムみたいな存在。しかし、日本はこの戦闘機を使って奇襲をかけることに成功すれど、戦争には負けた。戦いの途中で攻略法も見破られ、こっちも必死になって次々と新型機を投入したけれど、結局どうにもならなかった。これを改めて『機動戦士ガンダム』の世界で例えるならば、ザクなんですよね。そう、零戦って欧米の人々にとってみれば「戦争の始まりに投入されてマジびっくりした敵のメカ(でも途中から勝てるようになったもんね)」なのだ。

 ザクはガンダムの大事な敵だしシャアも乗ってたからプラモデルがたくさん出ました。よかったね。でもプラモの世界における零戦は「日本の模型メーカーがこぞって作る戦闘機」という時代が長く続いた。戦時中とか戦後すぐは「勝ったもんね!」という国からチョロチョロっと零戦のプラモデルが発売されたけど、それはめっちゃレアなことだったし、なんせ昔のことだから今みたいにバシッと正確なものじゃなくて「零戦ってこんな感じだよね」みたいな出来のもの(……つまり、真面目に零戦のカタチを追っかけていないもの)が多かった。

 戦後、日本がちょっとずつ復興してきて、やがてプラモデル文化が根づいて、日本の模型メーカーがちゃんとした零戦のキットを作るようになったから、海外メーカーはなおさら零戦を作る理由がない。どちらかと言えば、日本のメーカーが海外のすごい戦闘機を凄いプラモにして海外にも流通させ、その地位を確固たるものにした……ということのほうが重要だし、いまも世界中の人達が「日本のプラモデルはすごい!」と驚き、憧れ続けている。

 だから、チェコのエデュアルドという会社が「日本の零戦を新しくプラモデルにするぜ!」と判断したのはとんでもない事件なのだ。これは史上初の「外国の人が現代の資料や技術を駆使して本気で挑んだ零戦の模型」と言っていい。パーツを見ていると、たしかにエデュアルドらしい繊細だけど組みやすそうなタッチで零戦がパーツに分解されている。「俺たちの零戦」がやっとヨーロッパの人たちにちゃんと褒められているみたいで、なんだかうれしい。「アメリカやイギリスの人はこんなに誇らしい気持ちをずっと味わってたのか!ずるいな!」とよくわからないやっかみが出てくるくらい。

 エデュアルドはもともといろんな飛行機模型をもっと素晴らしい作品に仕上げるためのパーツを作ってきた会社だから、零戦にもこんな緻密な彩色済みエッチングパーツが付く。貼り重ねるだけでコクピットは達人が塗ったのと同じくらいすごいことになる。パーツの精度だって半端じゃない(っていうかいまのエデュアルドはホントに素晴らしい組み心地で、「東欧産の輸入プラモなんて……」と思っていた人にこそ組んでもらいたい!)。

 窓枠がたくさんあるけど、その塗り分けも同梱のカット済みマスキングシートを使えばバッチリだ。

 確かに、ロングセラーになっている巷の零戦のプラモと比べたらちょっと高い。でも飛行機模型に自信がない人ほど、このキットを買ったほうがいい。ふたつ入りは1個入りよりずいぶんお得。ひとつ失敗しても、次がある。パピコみたいに仲間と分けてもおもしろい。

 海外の人が見た日本の景色を文章で綴られたら、俺達はそれを読んで「そうそう!」と嬉しくなったり「そういう視点もあるのか!」と驚くじゃないですか。あれと同じことが、プラモでも味わえる。海外からやってきた最新シャキシャキの零戦、ぜひともご賞味あれ。

からぱたのプロフィール

からぱた/nippper.com 編集長

模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。

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