深夜に車で山道を走るたびに、中学生の時に読んだマンガ『頭文字D』のことをぼんやりと思い出す。最初はちょっと古めかしいスタイリングだなぁと思っていた86も、話数を重ねる毎にどんどんカッコ良く見えてくるのだから、不思議な魅力のある漫画だった。ギャアアアアという擬音とチリが舞うような独特の筆致によって描かれる86の姿。だいぶ記憶が曖昧になってしまったそのシルエットによる感動を思い出すべく、漫画ではなくプラモデルを買ってみた。プラモデルは飾っておく間、忘れるということが無いハズだから。
リーズナブルで、パーツ数がかなり少なく、別売りのモーターと電池を入れれば走行させる事が出来るおもしろいキットだ。プラモデルとミニ四駆の中間のような雰囲気を持っている。この模型は四駆ではなく、実車の86と同じ後輪駆動だけれど。
しかし信じられないほど早くカタチになって笑ってしまった。リトラクタブルライトを2個バゴっとはめ込み、窓パーツを付けただけでボディは完成。特に特濃スモークフィルムを施工したようなクリアブラックの窓ガラスが最高だ。道交法的には完全にアウトだが、これをネジ止めすれば4面が一発でピタッと決まるし、中身が見えないので内装を作る必要が無い。思い切りのよい割り切り方でとっても気持ちが良かった。ここまでは誇張抜きに2分もあれば組み上がってしまう。
その代わりシャーシの方はかなり組みにくい部分が存在し、パーツがすっ飛ぶ事故も発生したのでちょっと時間がかかってしまった。しかしパーツ数は極限まで少なく、それでも物凄いスピード感で完成する。なんともピーキーなプラモデルだ。
色分けもないし、リトラクタブルライトは可動しないし、ナンバーも無いし、ワイパーも無いが、それがどうしたと言わんばかりのプロポーションだ。リアルかどうかが全てでは無い。フロントグリル周辺のディテールはシャッキリしてガンダムの様なキャラクター的存在感がある。各所スジ彫りもピシッと入っていて、パーティングラインも全然見当たらないのでノイズの無い直線的でスマートなフォルムの美しさがある。何よりパンダ塗装のされていない純粋な86のカタチってこんなにカッコよかったのかー!という驚きを与えてくれる。まるでプロ漫画家の「線画」の様な出立ちなのだ。
さて、これに塗装をするとなるとモデラーの腕の見せ所である。パンダトレノの塗装は1度経験したことがあるのだが結構厄介で、白と黒の境界がかなりマスキングをしにくい部分にかかっている上に、マスキングをしても塗料が入り込んでしまう可能性が高い部分も多く、コップの水をこぼさないようにドリフトで峠を攻めるぐらい難しい(?)。
塗装のヒントを求めるべくネット徘徊していると、現行のトヨタGR86のカラーバリエーション中に「アイスシルバーメタリック」という素敵な色があったのでそれに感化され、タミヤスプレーのマイカシルバーをブワーっと吹いた。仕上げは水性塗料で各所を筆塗りした。シルバーの上から、シャバシャバしたシタデルコントラスト各色でライト類を染め塗りすると簡単にイイ感じになるので一石二鳥なのだ。
そして、なんか使わないのも勿体無いので「藤原とうふ店(自家用)」のデカールを貼って完成させた。これはこれで面白い。ノスタルジックに頭文字Dの86を思い出すなんて当初の目的は完全に忘れてしまっていたのだけれど、漫画もプラモデルも、本当に面白い作品は夢中で進行していくものですから。
1988年生まれ。茨城県在住の会社員。典型的な出戻りモデラー。おたくなパロディと麻雀と70’sソウルが大好き。