2013年、ポーランドでヴォイテクとマルチンという二人の男が立ち上げた模型メーカー、アルマホビー。彼らの最新作が模型店に並んだ。なんと日本の戦闘機だ。それもアメリカの技術者やパイロットたちが終戦後に「これ、最強戦闘機じゃん」と評価した疾風だ。
僕はふだん外国のいろんなメカを組んでは「すっげえなあ」と感嘆してばかりだから、自分の国の戦闘機を遠い国の人が必死でプラモにしてくれて、それが色んな国のプラモ好きに届いてると思うと、なんだか世界中の人から「君たち、やるねぇ!」と褒められているみたいでうれしい。
1/72というコレクションサイズのプラモだけど、見てのとおりディテールは抜群。細いスジ、深いスジ、きれいに並んだ鋲もすごく清潔感があって素敵だ。ほんのわずかにプラスチックが収縮して波打っているところもあるけれど、実物だってまあまあベコベコしている。このままスルッと組めば、かっこいい疾風ができあがるはずだ。
ただ正確でただ細かいというのなら、世界中にそれを競っているメーカーがたくさんある。でも、アルマホビーのすごいところはそれだけじゃない。圧倒的に組み心地に対する意識が高いのだ。どうやったら間違いなく、不安にさせずに、ビシッと位置や角度が決まるか、スムーズに組み立てや塗装ができるかを一生懸命考えているのが伝わってくる。アルマホビーがやっているのはもちろん商売なんだけど、それ以上に彼らが根っからのプラモ好きで、自分がどんなプラモを楽しみたいのかというビジョンが明確に見えている証拠だ。
ほんの数作前まで、彼らのプラモは「やりたいことは分かるんだけど、イマイチ技術が追いついてないな!」という印象だった。だけど今回の疾風を見ると、こんな細かい彫刻もいっさいヨレることなく、シャキッと入っている。拡大鏡を付けて眺めると、そのシャープさ、端正さに思わず「すごいな……」とため息交じりの感嘆が漏れる。
新興プラモメーカーをファブレスで立ち上げることも多くなった昨今にあってなお、彼らは他国で金型を作っていては求めるクオリティが出ないことを最初の数作で理解したのだという。そこから意地と根気でポーランドの金型工場を捕まえ、トレーニングし、何を実現したいのかを説得して自国製の金型を彫れるところまで漕ぎ着けたのだ。
彼らはプラスチックの性質を熟知しているから、薄くしたところを折り曲げながら組み立てるとか、細いパーツのしなりを駆使してユーザーに思いもよらぬ組み立てをさせることも厭わない。たとえばコクピットの背面に位置するパーツは、同一面にあったフレームと椅子を保持するパイプがねじれの位置になるようパーツを曲げながら接着するよう指示されるのだが、これがめっぽう面白い。「図面の状態では組めない形状が、ユーザーが組み立てて初めてパーツが所定の機能を発揮する」という大冒険を味わえるのだから。
デカールデザインも、ポーランドの人が手掛けたとは思えないほどマーキングや文字の「日本機らしさ」をしっかり再現できている。インクのノリも版のキメも文句無しで、余計なニスだって目立たない攻め攻めの印刷。彼らは本当に、世界中の傑作飛行機を片っ端から素晴らしいプラモにしたいと本気で思っている。
小国だから、後発だからと彼らはニッチを狙わない。むしろ「有名でかっこいい飛行機は、誰もが最高の完成品を手に入れられる上質なプラモにならなければいけない」と信じているから。その思想は下に示したスケールアヴィエーションのバックナンバーにてインタビューをしているのでぜひ読んでもらいたい。
塗装は4種類から選べる。地味なのもあるし、派手な迷彩塗装のものもあるけど、いちばん気になるのはこの銀色の仕様だ。スプレーでズドンと吹けばまず完璧だろう。
国内のメーカーがこれまで多くの飛行機をある程度「良いプラモ」にしてきたからこそ、日本機のプラモデルを新規に開発するメーカーは、いまやほとんどない。そういう環境に対して、「まだ俺達なりに答えがある!日本のみんな、お前たちが飛ばしていた飛行機はこんなにすごかったんだぜ?」と投げかけられた一通の熱い手紙。僕らが組んで、彼らに最高だったと伝えることがいちばんのお礼になるはずだ。
模型誌の編集者やメーカーの企画マンを本業としてきた1982年生まれ。 巨大な写真のブログ『超音速備忘録』https://wivern.exblog.jp の中の人。